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大阪地方裁判所 昭和46年(ヨ)1980号 判決 1975年3月14日

申請人

山出勉

申請人

今出太一郎

右両名訴訟代理人弁護士

小林勤武

外一三名

被申請人

日本国有鉄道

右代表者総裁

藤井松太郎

右訴訟代理人

清水勲

外一名

右訴訟代理人弁護士

高野裕士

主文

一、申請人らが被申請人に対し雇用契約上の地位を有することを仮に定める。

二、被申請人山出勉に対し、昭和四六年九月一日以降本案判決確定に至るまで毎月二〇日限り別紙賃金目録(一)の月額賃金欄記載の各金員を仮に支払え。

三、被申請人は申請人今出太一郎に対し、金三万八、五八〇円および昭和四六年八月一日以降本案判決確定に至るまで毎月二〇日限り別紙賃金目録(二)の月額賃金欄記載の各金員を仮に支払え。

四、申請費用は被申請人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

(申請人ら)

主文同旨。

(被申請人)

1  本件仮処分申請をいずれも却下する。

2  申請費用は申請人らの負担とする。

第二  当事者双方の主張

(申請の理由)

一、被申請人(以下国鉄ともいう)は、日本国有鉄道法(以下国鉄法という)に基づき鉄道事業を経営する公共企業体である。

二、申請人山出は昭和二〇年一〇月一九日、申請人今出は昭和二一年四月一一日に被申請人に職員として雇用された者であり、かつ、国鉄の動力車に関係する職員で組織する国鉄動力車労働組合(以下動労という)の組合員であつて、昭和四六年七月当時、申請人山出は動労天王寺地方本部(以下天王寺地本という)書記長、同今出は同地本執行委員(総務部長)の地位にあつた。

三、被申請人は、昭和四六年七月一五日、申請人らに対し公共企業体等労働関係法(以下公労法という)一八条に基づき解雇(以下本件解雇という)する旨意思表示をした。

四、しかし、本件解雇は、後記の理由により無効であり、申請人らと被申請人との間にはなお雇用関係が存続しているものである。

五、申請人山出は、昭和四五年九月一日被申請人より期間を一年間と定めて公労法七条に基づく組合専従の許可を受けていたものであるが、本件解雇処分を受けなかつたとすれば、昭和四六年八月三一日限り右組合専従期間が満了し、組合専従者の身分を失ない、同年九月一日以降は組合非専従の動力車職員の地位に復帰するべきものであつたから、本件解雇が無効である以下、同日以降の賃金請求権を有する。そして申請人山出は、本件解雇当時、動力車乗務員として、これに適用される俸給表七職四八号の給与の支給を受けるべき地位にあつたところ、その後右職群号俸に該当するものについては、別紙賃金目録(一)記載のとおり給与額の改訂がなされているので、同申請人が本件処分を受けすに昭和四六年九月一日以降職場に復帰していた場合毎月二〇日の支払日に受け得る賃金は、同目録月額記載の各金員である。

申請人今出は、本件解雇が無効である以上、被申請人に対し、昭和四六年七月一六日以降の賃金請求権を有するところ、同申請人は本件解雇当時一般職俸給表五職七七号俸の賃金七万四、四〇〇円の支給を受けていたから同月一六日から同月三一日までの未払賃金は金三万八、五八〇円となり、またその後、右職群号俸に該当するものについては別紙賃金目録(二)記載のとおり給与の改訂がなされているので、同申請人は昭和四六年八月一日以降毎月二〇日の支給日に同月額賃金欄記載の各給与を受け得るものである。

六、申請人らは、いずれも被申請人から受ける給与を唯一の収入としてその生活を維持してきた労働者であるところ、本件解雇処分によつて生活の手段を失ない、また動労組合員としての組合活動の面においても甚大な不利用を受けつつあり、本案判決の確定を待つてていたのでは回復し難い損害をこうむるおそれがあるので、申請の趣旨掲記のとおり地位保全ならびに賃金仮払の仮処分命令を求める必要性がある。

(申請の理由に対する認否)

一、申請の理由一ないし三の事実は認める。

二、申請の理由五の事実中、申請人山出につき、同申請人が昭和四五年九月一日被申請人より一年間の組合専従許可を受けたこと、同申請人が本件解雇当時動力車乗務員俸給表七職四八号の給与を受けるべき地位にあつたこと、その後右職群号俸に該当する職員の給与が別紙賃金目録(一)記載のとおり改訂されていること、右給与支給日か毎月二〇日であることは認めるが、その余は否認する。

申請人山出は、本件解雇処分を受けた後も動労天王寺地本書記長の地位に留まり、昭和四七年八月には同地本副委員長に選任され、現在まで引続き組合業務に専従しているから、仮に本件解雇が無効であるとしても、被申請人は同申請人の給与を支給する義務を有しない。

申請の理由五の事実中、申請人今出につき、同申請人が本件解雇当時一般職俸給表五職七七号の給与金七万四、四〇〇円の支給を受け、本件解雇処分を受けなかつたとすれば、昭和四六年七月一六日から同月三一日までの賃金は金三万八、五八〇円となること、その後右職群号俸に該当する職員の給与が別紙賃金目録(二)記載のとおり改訂されたこと、右給与支給日が毎月二〇日であることは認めるが、その余は否認する。

申請人今出は、後述のとおり、昭和四六年五月二〇日に行なわれた動労天王寺地本の違法な争議行為を計画、指導したものであり、仮に解雇処分を受ける程の責任はないとしても、右争議行為における同申請人の役割と行動が他の懲戒処分に相当することは明白であり、被申請人の職員は懲戒処分を受けた場合その給与を最高四号俸減給されることになつている。従つて、仮に本件解雇が無効であるとしても、被申請人は同申請人に対し別紙賃金目録(二)記載のとおりの改訂賃金を支給する義務はない。

三、申請の理由六の事実は否認する。

(抗弁)

一、本案前について

被申請人とその職員たる申請人らとの関係は公法上の関係であつて、本件解雇は行政庁たる被申請人総裁が公労法一八条に基づき公法上の処分としてなしたものであり、本件仮処分申請は行政庁の処分について民事訴訟法に規定する仮処分を求めるものであるから、行政事件訴訟法四四条の規定により許されないものである。

二、本案について

動労は、昭和四六年五月二〇日同天王寺地本を拠点本部どし、和歌山機関区、新宮機関区および紀伊田辺機関区においてストライキ(以下かりにこれを本件争議行為という)を実施し、多数の列車の運転休止、遅延などをきたさしめ、国鉄業務の正常な運営を阻害し、旅客公衆に多大の迷惑を及ぼしたのであるが、申請人山出は動労天王寺地本書記長として、同今出は同地本執行委員としていずれも本件争議行為の実施を計画するとともに、申請人山出は和歌山機関区における同地本現地最高責任者として、同今出は新宮機関区における同最高責任者として、右争議行の指導、実施に当つたものであり、その行為はいずれも公労法一七条一項に違反するので、被申請人は公労法一八条に基づき申請人らを解雇したものである。

申請人両名の公労法一七条一項違反行為の詳細は以下のとおりである。

(一) 本件争議の経過

1 動労中央本部における方針決定

動労は、昭和四六年三月五日および六日に第六七回定期中央委員会を開催し、昭和四六年の春闘賃金要求に関し、一万九、〇〇〇円の大巾賃上げ獲得等の目標を定め、その闘争方針として、賃金闘争決着の山場に全一日ストライキの配置体制を確立すること、ストライキ配置の規模等は中央闘争委員会で決め、全国代表者会議で最終的に確認すること、春闘ストライキの批准投票は四月中旬に実施すること、地方本部委員会の開催は三月二〇日まで完了することなどを決定した(以下年度は特記しない限り昭和四六年を示す)。

2 天王寺地方本部における方針決定

動労天王寺地本は、三月一九日および二〇日に第四四回定期地方本部委員会を開催し、春闘大巾賃上げ獲得など前記第六七回中央委員会の方針と内容を同地本においても強力に推進することを確認し、その具体的行動として、春闘ストライキ批准投票に向けて全組合員に徹底したオルグ活動を実施すること、各支部は三月中に支部委員会を開催し、支部闘争委員会を発足させ、執行体制を組織対策中心に切りかえること、春闘ストライキの規模等は全国代表者会議で確認されるので、天王寺地本はこれに関連して地方本部代表者会議戦術委員会などを開催して対処すること、国鉄労働組合(以下国労という)とのストライキ共闘体制を強化することなどを決定した。

3 中央における団体交渉および調停

動労中央本部は、前記のとおりストライキ体制を準備して闘いをすすめる方針を決定するとともに、三月二〇日被申請人に対し、昭和四六年四月一日以降組合員一人平均月額一万九、〇〇〇円の源資をもつて賃金引上げを行なうよう要求し、三月二〇日から五月一五日まで被申請人と九回にわたり団体交渉を重ねたが、被申請人においては、国鉄財政悪化を理由に、合理化事案の解決と当時被申請人当局が推進していた生産性向上運動に対する組合の協力を有額回答の前提条件とする立場をとり、双方の間に意見が対立し、遂に団体交渉は決裂した。ついで動労は、五月一七日公共企業体等労働委員会(以下公労委という)に賃金引上げに関する調停申請を行ない、公労委は、右調停申請を受けて、同日以降労使双方から事情聴取を行なつたが、被申請人は団体交渉の際と同様の立場を堅持し、調停作業は進展しなかつた。

4 全国および地方本部代表者会議の開催と地方共闘委員会の設置

動労は、四月二一日全国代表者会議を開催し、春闘情勢を検討した結果、各地本に対して五月にストライキを実施する準備体制を確立することを要請し、この要請を受けて、天王寺地本は、四月二七日同地本代表者会議を開催し、春闘に対する取組み方等を協議した。こうした情勢の中で、天王寺地本は、四月三〇日国労南近畿地方本部と春闘地方共闘委員会を設置し、その構成員として天王寺地本より長瀬委員長、蔵城副委員長とともに申請人両名を参加させた。

5 ストライキ闘争拠点および具体的戦術の決定

次いで五月八日開催された関西ブロック代表者会議において天王寺地本は五月一八日から二〇日にかけてのストライキ準備地方本部に指定された。これに伴い天王寺地本は、五月一二日および一五日、動労中央本部役員も出席のもとに、天王寺地本代表者会議を開催した。右会議においては、ストライキ闘争は五月二〇日〇時から二四時まで実施すること、闘争拠点を和歌山機関区、紀伊田辺機関区、新宮機関区、竜華機関区とすること、ならびに各闘争拠点における具体的戦術を決定し、その結果申請人山出書記長は和歌山機関区に、申請人今出総務部長は新宮機関区にそれぞれ地本現地最高責任者として派遺されることになつた。

この間動労と国労は春闘地方共闘委員会をもち、五月一六日前記闘争拠点その他についての確認を行なつた。

6 被申請人の警告措置

前記のような争議行為の計画を察知した被申請人の天王寺鉄道管理局長は、五月一七日天王寺地本に対し違法な闘争計画を直ちに中止するよう申し入れるとともに、万一違法な事態が発生した場合には関係職員の行動について責任を追及する旨の警告を発した。更に前記闘争拠点においても、被申請人の現地対策部長および機関区長らが右と同趣旨の警告を行なつた。

7 争議行為の実施

しかるに、既に述べたとおりの動労中央本部・天王寺地本・傘下支部における春闘ストライキに向けての周到なる計画、指導を経て、五月一七日ごろ前記各闘争拠点に現地動労・国労共闘本部が設置され、その直接指揮のもとに五月二〇日和歌山機関区、新宮機関区、紀伊田辺機関区においてストライキが決行された。

(二) 本件争議行為における申請人らの行動

申請人らは、前記のとおり天王寺地本が闘争拠点地本に指定されたのに基づき、同地本としての具体的闘争戦術の企画決定に参画するとともに同地本現地最高責任者として、申請人山出は和歌山機関区に、同今出は新宮機関区に派遺され、本件争議行為を指導したものであつて、右争議行為を共謀し、そそのかし、あおりあるいは実施させた具体的行動を挙示すると次のとおりである。

1 申請人山出関係

(1) 申請人山出は、昭和四六年三月五日および六日に開催された前記第六七回動労定期中央委員会に出席し、昭和四六年の春闘方針および全一日ストライキ体制の決定に参画した。

(2) 申請人山出は、三月一九日および二〇日に開かれた第四四回動労天王寺地本定期委員会の開催を企画し、同委員会に出席して第六七回中央委員会決定の方針と内容を同地本で強力に推進することを確認し、前記二(一)2記載の春闘全一日ストライキ体制準備のための具体的行動方針の決定に参画した。

(3) 動労は前記のとおり四月二一日全国代表者会議を開催し、春闘情勢を検討して、各地方本部に五月段階のストライキ実施の準体制を確立させることを決定したが、申請人山出は右会議に出席して、右決定に参画し、次いで右全国代表者会議の決定を受けて四月二七日開催された天王寺地本代表者会議に出席し、春闘に対する取組み方等の協議決定に参画した。また、こうした情勢の中で、申請人山出は四月三〇日動労および国労の地方本部レベルで設置された前記春闘地方共闘委員会のメンバーの一員に参加し、闘争時における国労との共闘体制の調整に当ることになつた。

(4) 五月八日前記関西ブロック代表者会議において天王寺地本がストライキ準備地方本部に指定された後、これに関連して、五月一〇日天王寺地本闘争委員会が開催され、同委員会において闘争拠点本部としての闘争意識昂揚のため順法闘争の実施が決定されたが、申請人山出は右委員会に出席し、右決定に参画した。

(5) 更に、申請人山出は五月一二日および一五日の両日に開催された天王寺地本代表者会議に出席し、次いで五月一六日に開催された天王寺地本闘争委員会に出席した。右の会議においてはストイキの日時、拠点および闘争戦術等本件争議行為実施のための具体的諸事項が決定されたが、申請人山出は右決定に参画するとともに、自らは天王寺地本派遣現地最高責任者として和歌山機関区に赴き現地で本件争議行為を指揮することを了承した。また申請人山出はこの間国労との春闘地方共闘委員会に出席し、闘争拠点および闘争戦術等の調整を行なつた。

(6) 申請人山出らは、本件争議行為の前日である五月一九日午後四時四五分頃、和歌山機関区長室に赴き被申請人の現地対策本部長茂原運転部長と面談したが、その際同本部長から「違法な闘争を中止するよう」求められたがこれに取り合わなかつた。

(7) その後、申請人山出は、五月一九日午後九時二分頃、国労、動労共闘本部前で開催された決起大会において参集した約五〇〇名の組合員に対し「今次五・二〇闘争を動労、国労完全共闘によつて成功させ、春闘勝利に向けて全組合員が一致団体して闘おう」などと挨拶を行い、参加組合員の闘争意識をあおつた。

(8) 五月二〇日午前一一時二〇分頃、前記共闘本部前において、被申請人の現地対策本部付古市労働課補佐が申請人山出に対しストライキの中止と職場離脱した組合員の職場復帰を求めたが、申請人山出はこれを無視した。

(9) 申請人山出は、五月二〇日午後七時頃、組合員約五〇〇名が集結して前記共闘本部前で開催されたストライキ集約大会の司会をするとともに「動労、国労の完全共闘によりこの闘争が成功した。約一〇〇本の列車が運休し、当局に大打撃を与えたことは我々の大きな成果である」などと演説し、また組合員に対し「勤務者は全員職場に復帰せよ」と指示して本件闘争を現地において指導統轄した。

2 申請人今出関係

(1) 申請人今出は、前記申請人山出の項(2)の天王寺地本定期委員会、同(4)の天王寺地本闘争委員会、同(5)の天王寺地本代表者会議、同闘争委員会に出席し、右各項記載の各決定に参画した。

(2) また申請人今出は、四月三〇日動労および国労の地方本部レベルで設置された春闘地方共闘委員会のメンバーとなり、闘争時の国労との共闘体制の調整に当ることになつた。

(3) 前記のとおり五月一二日および一五日の天王寺地本代表者会議、同月一六日の天王寺地本闘争委員会においてストライキ拠点等本件争議行為実施の具体的決定がなされたが、その際申請人今出は天王寺地本派遺現地最高責任者として、新宮機関区に赴き現地で本件争議行為を指揮することを了承し、またこの間において、国労との春闘地方共闘委員会に出席し、闘争拠点および闘争戦術等の調整にあたつた。

(4) 申請人今出らは、五月一八日正午新宮機関区の動労新宮支部前に組合員約三〇名を集結させ、職場集会を開催し、同組合員に対し同月二〇日のストライキ参加を呼びかける等して参加組合員の闘争意識をあおつた。

(5) 申請人今出は、五月一九日午後二時五〇分頃、動労中央闘争委員会派遺の渡辺儀治とともに被申請人の現地対象本部長室に赴き、吉野同本部長に対し、新宮機関区における闘争の責任者は右渡辺と申請人今出であり、他の者はその指示どおり行動するだけである旨通告した。これに対し吉野本部長は組合の闘争計画は違法であるから直ちに中止するよう勧告したか、申請人今出らはこれを拒絶した。

(6) ひいて、申請人今出らは、前同日午後七時頃から同七時五〇分頃までの間、乗務員宿泊所前に約一四〇名の組合員を集結させ、決起集会を開催し、「当局に対し私達は国労の皆さんと手を組み断固ストライキをもつて闘う」と演説をさせるなどして参加組合員の闘争意識をあおつた。その後右集会に参加の組合員らは乗務員宿泊所前から機関区長室にかけて構内をデモ行進し、機関区長室前で「合理化反対」「一万九、〇〇〇円よこせ」などと叫び気勢を上げた。

(7) 申請人今出は、五月二〇日午前五時一四分頃、前記渡辺儀治外一名とともに被申請人の現地対策本部長室において、本部長に対し「午前五時一五分に出勤となる乗務員からストライキに入る」旨の通告をした。これに対し本部長は「スイライキは違法であるから直ちに中止せよ」と重ねて警告したが、申請人今出らはこれを無視し、右通告どおり新宮機関区においてストライキが実施された。

(8) ストライキ実施中の前同日午前一〇時二七分頃、申請人今出らは闘争参加の組合員約二〇名とともに、制止を聞かずに新宮機関区の当直助役室に押しかけ、第三〇五D列車の代替乗務に関して激しく抗議を行なうなどして当直助役らの業務を妨害した。

(9) 次いで申請人今出は、前同日午後七時頃から同七時三〇分頃までの間、前記渡辺らとともに新宮機関区検修室前で組合員約一四〇名を集めて集約大会を主催し、ストライキが成功裡に終了した旨宣言して右大会を終えた。

(10) 更に申請人今出は、ストライキ終了後前記渡辺とともに機関区長の処に赴き午後八時一〇時一〇分頃から午後一一時頃まで前記第三〇五D列車の代替乗務について再度執拗に抗議した。

(三) 本件争議行為の影響

前記のとおり動労天王寺地本が本件争議行為に突入した結果、和歌山機関区においては五月二〇日午前三時〇分から午後七時一〇分まで、新宮機関区においては午前五時一五分から午後七時〇分までそれぞれストライキが実施された。他の闘争拠点においてもほぼ同様の事態であつた。右ストライキの結果、被申請人の天王寺鉄道管理局管内においては、前記和歌山機関区、新宮関機関、紀伊田辺機関区の三拠点の所属職員を中心に列車乗務員二三七名、地上勤務者三六五名がストライキに参加し、業務を放棄したため、第二列車外八一本の旅客列車、第一三八二列車外二八本の貨物列車、合計一一一本の列車が運動を休止し、第一二六列車外二〇本の旅客列車が最高二時間五分も遅延するなど列車の運行は大混乱に陥つた。この中には特急列車一二本、急行急行列車二一本が含まれ、紀伊半島で唯一の交通機関の主要列車が殆んど一日運転を休止するという未曾有の影響を生じ、被申請人の業務の正常な運営が著しく阻害され、旅客、荷主、公衆に多大の迷惑を及ぼした。

各機関区における列車の運転休止、遅延状況の内訳は次のとおりである。

1 和歌山機関区(申請人山出関係)

和歌山機関区では、同機関区の所属乗務員一二四名、地上勤務者三〇九名(同機関区の管理者を除く当日勤務者全員)および他の機関区所属で和歌山機関区から乗務すべき乗務員一九名が三〇分ない一四時間二三分それぞれ欠務し、第一五二八列車外四九本の旅客列車、第五九二列車外二一本の貨物列車が運転を休止し、第一五二四列車外八本の旅客列車が二分ないし二八分間それぞれ和歌山駅を遅発した。

2 新宮機関区(申請人今出関係)

新宮機関区では、紀伊田辺機関区所属で新宮機関区から乗務すべき乗務員一〇名、地上勤務者一名(申請人今出)が四時間二五分から八時間それぞれ欠務し、第一二五列車外二本の旅客列車が運転を休止し、第一二六列車外八本の旅客列車が七分間ないし二時間五分それぞれ新宮駅を遅発した。

(抗弁に対する認否)

一、本案前について

被申請人とその職員との勤務関係は公法上の権利関係ではなく、私法関係とみるべきであつて、公労法一八条による解雇処分は行政事件訴訟法四四条にいう公権力の行使にあたる行為に該当せず、民事訴訟法の仮処分の適用を受けるものである。

二、本案について

本案の抗弁冒頭部分につき、被申請人主張の理由で解雇の意思表示がなされたことは認める。

(一) 同(一)本件争議の経過の項につき

1 1について認める。

2 2について第四四回天王寺地本定期委員会が開催されたことは認めるが、右地本委員会は被申請人主張のように春闘ストライキへの具体的行動を決定する権限を有しない。

3 3については認める。

4 4について動労全国代者会議および天王寺地本代表者会議が開催されたこと、天王寺地本が国労南近畿地方本部と春闘地方共闘委員会を設置し、申請人らがその構成員になつたことは認める。但し代表者会議は全国、地方本部とも決定、決議の機関ではなく、右全国代表者会議では動労中央闘争委員会がストライキの規模および細部を決定する旨確認されたのである。

5 5について関西ブロック代表者会議および天王寺地本代表者会議が開催されたことは認めるが、その余の事実は否認する。天王寺地本をストライキ準備拠点の地方本部と決定した機関は動労中央闘争委員会であり、同地本への派遺中央闘争委員(以下派遣中闘という)らが右決定を右関西ブロック代表者会議において伝達したものである。また、被申請人主張のストライキの拠点、規模等は小屋原市郎派遺中闘が五月一五日の天王寺地本代表者会議において、中央闘争委員会の戦術決定として伝達指令したものである。

(二) 同(二)本件争議行為における申請人らの行為の項につき冒頭部分について否認する。

1 申請人山出関係について

(1) (1)について否認する。申請人山出は中央委員会に出席する資格を有せず、同委員会を傍聴したのみであり、同委員会における春闘方針の決定等に参画していない。

(2) (2)について天王寺地本定期委員会に出席したことは認めるが、その余の事実は否認する。同委員会は天王寺地本委員長が招集したものであり、また同委員会に被申請人主張のような事項を決定する権限のないことは(一)2の部分で述べたとおりである。

右委員会の開催時期は被申請人に対する賃上げ要求書提出の段階であつて、右委員会の開催は本件争議行為と具体的関連を有しない。

(3) (3)について(一)4の部分に述べたとおりである。

(4) (4)について天王寺地本闘争委員会に出席したことは認めるが、その余の事実は否認する。順法闘争実施の決定は中央本部指令に基づくものである。

(5) (5)について天王寺地本代表者会議に出席したことは認めるが、その余の事実は否認する。五月一六日の天王寺地本闘争委員会なるものは存しない。地本代表者会議の目的は主として中央本部の指令の伝達が中心であり、ストライキ拠点が指定された五月一五日の地本代表者会議の内容は(一)5のとおりである。和歌山機関区の本件闘争最高責任者は小屋原派遣中闘であり、申請人山出はこれを補佐するため同地本より派遣されることになつたものである。

(6) (6)について否認する。当局は小屋原派遣中闘ら闘争責任者に対しストライキ中止の申入れをなしたもので、申請人山出はこれに同席したにすぎない。

(7) (7)について否認する。申請人山出は右集会で閉会の言葉を述べたのであり、その内容も煽動的なものではない。因みに右集会はストライキ参加者ではなく、単なる動員者を対象に開催されたものである。

(8) (8)について被申請人主張の如き事項の申入があつたことは認める。但し当局側は申請人山出にストライキ中止を決定する権限がないことを承知のうえで形式的に右申入を行なつたのにすぎない。

(9) (9)について否認する。申請人山出は集会の司会役をしただけである。

2 申請人今出関係について

(1) (1)について天王寺地本定期委員会、天王寺地本闘争委員会(但し五月一〇日付)、天王寺地本代表者会議に出席したことは認めるが、その余の事実は否認する。申請人山出の当該部分で述べたとおりである。

(2) (2)について申請人今出が春闘地方共闘委員会の構成員になつたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(3) (3)について否認する。新宮機関区の本件闘争最高責任者は渡辺派遣中闘であり、申請人今出はこれを補佐するため天王寺地本より派遣されることになつたものである。また申請人今出は春闘地方共闘委員会には四月三〇日顔合せに出席したのみである。

(4) (4)について否認する。被申請人主張の職場集会には出席していない。

(5) (5)について否認する。前記のとおり新宮機関区における本件闘争の責任者は渡辺派遣中闘であり、当局との交渉の窓口役となる旨申し入れたものである。

(6) (6)について決起集会に参加したことは認めるが、その余の事実は否認する。

(7) (7)について否認する。紀伊田辺機関区所属組合員のストライキ通告を行なつただけで、新宮機関区におけるストライキの決定を通告したものではない。

(8) (8)について否認する。当局側が手落ちを認めたケースであり、業務を妨害したことはない。また本件争議行為の指導責任とは関係のないことである。

(9) (9)について集約大会に参加したことは認めるが、その余の事実は否認する。申請人今出は集約大会を主催したものではなく、発言もしていない。

(10) (10)について否認する。(8)で述べたとおりである。

(三) 同(三)本件争議行為の影響の項につき

同項について被申請人主張のストライキ実施時間、参加組合員数および列車の運転休止、遅延状況を認める。しかし新宮機関区ではストライキを実施しなかつた。前述のとおり中央闘争委員会は新宮機関区をストライキ準備拠点に指定し、新宮支部も闘争態勢にあつたが、遂にスト突入指令はなく、同機関区所属組合員は就労を放棄せず、ただ紀伊田辺機関区所属で新宮機関区から乗務すべき乗務員が中央闘争委員会の指令に基づき指名ストライキに参加したものである。

(申請人らの主張)

一、申請人らの解雇事由に対する反論

申請人らは本件争議行為を計画したものではなく、また各拠点における闘争を指導し、実施させた責任者でもない。すなわち、

(一) 動労は、前記のとおり動力車に関係ある職務に従事する被申請人の職員で組織する全国的な単一組織であり、中央本部、地方本部、支部、地方評議会等を設け、決議機関として大会(最高決議機関)と中央委員会(大会に次ぐ決議機関)があり、執行機関として中央執行委員会があり、中央執行委員会は臨時に中央闘争委員会ともなるが、大会または中央委員会の決議の範囲内で組合員に指令する権限を認められている。また地方本部には機関として地方本部大会、同委員会、同執行委員会、役員として執行委員長、同副委員長、書記長、執行委員等が置かれ、地方本部は中央本部規約の認める範囲内で地方本部規約を設けて行動する。

右のように動労は全国単一の組織であるとともに、ことに闘争方針の決定については全国を網羅している鉄道事業における闘争という形態から必然化された組織原則として、中央本部に闘争の直接指導の権限を集中している。したがつて、闘争方針は、中央本部で計画決定し地方本部等にその実施を指令するもので、地方本部等が中央本部の指令の範囲を超えて独自の決定を行なうことはない。地方本部役員等も中央本部の指令なくしてストライキを計画実行したりすることはない。

(二) 本件争議行為は昭和四六年春闘における賃上闘争の一環として組まれたもので、動労の賃上け要求に対し、国鉄当局は当時当局が推進していた生産性向上運動への組合の協力を回答の前提条件として賃金改定につき無回答に終始したため、動労中央闘争委員会が全国各拠点におけるストライキの実施を決定し、天王寺地本拠点については中央闘争委員小屋原市郎、同渡辺儀治、同奥原信隆を派遣し、右派遣中闘に対し闘争の指導実施についての全権限を委任した。右現地派遣中央闘争委員は五月八日の関西ブロック代表者会議において天王寺地本がストライキ準備地本となる旨の中央闘争委員会の決定を伝達し、次いで五月一四日中央闘争委員会の戦術会議でスト拠点が確定されるや、翌一五日の天王寺地本代表者会議において、竜華、和歌山、紀伊田辺、新宮の各機関区をストライキ準備拠点とする旨の中央闘争委員会の戦術決定を伝達した。その後中央闘争委員会は前記天王寺地本派遺中闘に対し和歌山、紀伊田辺各機関区をスト突入拠点、新宮機関区をスト突入準拠点とする旨の指令を発し、これを受けて右現地派遣中闘は動労和歌山支部および同紀伊田辺支部に対し五月二〇日午前三時を期してストライキに突入するよう指令したものである。

動労中央本部は夫王寺地本における闘争指導のため五月一〇日頃から前記闘争中央闘争委員を現地に派遺し、闘争実施に当つては、小屋原中央闘争委員が天王寺地本関係の最高責任者となり、その傘下の和歌山機関区に小屋原中央闘闘争委員、紀伊田辺機関区に奥原中央闘争委員、新宮機関区に渡辺中央闘争委員をそれぞれ現地最高責任者として配置し、右派遺中闘はそれぞ現地で実際に本件闘争の指揮をとつた。

天王寺地本では中央闘争委員会からのストライキ指令により右現地派遺中闘を補佐するため、和歌山機関区に長瀬委員長と申請人山出、紀伊田辺機関区に蔵城副委員長外二名、新宮機関区に申請人今出が派遺され、その衝にあたつた。

(三) 以上のように、本件争議行為の実施はすべて動労中央本部が計画したものであり、天王寺地本ではその指令に基づきストライキ準備の諸会議を開催したにすぎない。しかも申請人らは前記中央委員会、関西ブロック代表者会議にも出席しておらず、もとより中央本部の指令を超えてストライキを企画したこともない。申請人らは中央本部のスト指令を実施するため派遺中闘および天王寺地本の上位役員の下で行動したもので、いずれも各拠点の闘争における最高責任者という地位にあつたものではない。

(四) また、中央闘争委員会は前記のとおり新宮機関区をストライキ突入準備拠点に指定したものの、遂にストライキ突入を指令せず、そのため新宮支部組合員は同機関区でストライキに参加しなかつたものであるから、申請人今出が新宮機関区における闘争の実施を指導したといえないことは明らかである。

二、本件解雇は以下に述べる理由により無効である。

(一) 公労法一七条一項は憲法二八条に違反する。

本件解雇の根拠法規である公労法一七条一項は、いわゆる三公社五現業の職員の争議行為を全面的かつ一律に禁止している点で、これら職員に対し争議権を含む労働基本権を保障した憲法二八条の規定に違反するものである。

これに関連する労働関係事件につき最高裁昭和四一年一〇月二六日判決(以下全逓中郵事件判決という)は、労働基本権は公共企業体等の職員および公務員についても原則として保障されるべきものであり、ただ公務員等については担当する職務の内容に応じて私企業における労働者と異なる国民生活全体の利益の保障という見地からの内在的制約を内包しているにとどまると解したうえ、具体的にその制約が合憲とされるための基準として①制限は合理性の認められる必要最小限度のものにとどめられること、②制限はその業務の停廃が国民生活に重大な障害をもたらすおそれのあるものについて、これを避けるために必要やむをえない場合に限られること、③制限違反者に対して課せられる不利益は必要な限度をこえないこと、④労働基本権を制限する場合には、それに見合う代償措置が講ぜられなければならないことの四条件を定立した。これに続く最高裁昭和四四年四月二日判決(以下都教組全司法仙台事件判決という)は、全逓中郵事件判決の判旨を更に発展させ、公務員の争議行為禁止規定がすべての公務員の一切の争議行為を禁止した趣旨と解すべきものであれば、それは公務員の労働基本権を保障した憲法の趣旨に反し違憲の疑いを免れないとまで断言した。

従来公労法一七条一項を合憲とする説は、三公社五現業の業務は公共性、独占性を有し、争議行為によつてその業務か停廃した場合には国民生活に重大な障害を与えるおそれがあること、公労法一七条一項の違反に対する制裁は同法一八条による解雇のみであるから右制裁は合理性の認められる必要最少限度のものであること、争議行為禁止の代償措置として公労委によるあつせん、調停および仲裁の制度を設けていることを理由としてあげている。

しかしながら、三公社五現業の業務といつても、国鉄、電々公社、専売の三公社と郵便、林野、印刷、造幣、アルコート専売の五現業の業務の内容、公共性の程度は多種多様であり、また争議行為による業務の停廃が国民生活に及ぼす影響の度合も区々である。今日高度に発達した資本主義国である我国の場合民間企業による資本の独占化が進み、その産業の公共性は膨大なものになつている。企業の独占性、公共性の典型は電気、ガス事業にみられるが、これら企業における争議行為については労働関係調整法上の緊急調整など一定の制限が付されているにとどまり、争議行為自体は禁止されていない。

翻つて公共企業体である国鉄の業務を検討した場合、今日の我国では国鉄以外に大量の交通機関が発達しており、国鉄が独占性、公共性を有しているわけではなく、その争議行為により多少業務の停廃があるとしても、それは国民生活に重大な障害をもたらす性質のものではないのであつて、国鉄業務の公共性を根拠に争議行為を禁止することは合理的な争議権の規制とはいえない。また国鉄当局は国鉄労働者にし過去争議行為のたびに、公労法一八条による解雇はもとより、国鉄法および就業規則を適用して免職、停職等の大量の懲戒処分を課してきている。解雇処分は賃金を唯一の生活の糧とする労働者にとつて最大限に苛酷な処分であり、かような大量処分は組合財政に犠牲者救済資金の膨大な支出としてのしかかり、組合活動に大きな障害を与え、個々の組合員に対しても臨時組合費の徴収という経済上の負担をもたらしている。かように争議行為に対する解雇の制裁は刑事処分に劣らぬ不利益を課すものであり、制裁のもつ最少限度性をこえているものである。次に代償措置の問題は、公共企業体労働者の場合、特に公労委の仲裁制度があげられる。しかし、公労委の仲裁裁定は、公共企業体の予算上又は資金上不可能な資金の支出を内容とするものについては政府はその履行を強制されてない(公労法三五条)という制度上の欠陥があり、現実にも政府は多くの仲裁裁定を無視してきた。このことは仲裁裁定が、制度上も、現状の上からも争議権剥奪の有効な措置となつていないことを示している。そもそも争議権はどのような場合にも保障されなければならず、代償ということはありえないが、仮に代償制度を考えた場合でも、公共企業体等労働者は争議権否認の代償措置を講ぜられていないといわなければならない。

そうすると、公労法一七条一項は、前記労働基本権制限の四条件のいずれにも適合せず、労働者の争議権を保障した憲法二八条に違反するものであり、したがつて公労法一七条一項を適用した本件解雇処分も違憲無効である。

(二) 本件争議行為は公労法一七条一項の禁止する争議行為に該当しない。

仮に公労法一七条一項の規定が違憲でないとしても、右規定は公共企業体等職員の争議行為全てを禁止しているのではなく争議行為のうち、国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害を与える違法性の強い争議行為のみを禁止したものと解すべきである。

最高裁都教組事件判決は、地方公務員法三七条一項の規定の趣旨に関して「地方公務員の争議行為にも種々の態様のものがあり、極めて短時間の同盟罷業または怠業のような単純な不作為のごときは直ちに国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な支障をもたらすおそれがあるとは必ずしもいえない。……地方公務員の行為が地方公務員法三七条一項に禁止する争議行為に該当し、しかもその違法性の強い場合もあろうが、また争議行為の態様からして違法性の比較的弱い場合もあり、さらには、実質的にみて、同条項にいう争議行為に該当しないと判断すべき場合もあるであろう」と述べ、地方公務員法三七条一項は違法性の強い争議行為のみを禁止したものと限定的に解釈している。これは憲法二八条との関連で公務員の争議行為禁止規定は限定解釈しなければならないとの原則を確立したもので、右都教組事件判決の限定解釈の論旨はそのまま当然に公労法一七条一項の解釈にも当てはまり、本件解雇の当否の判断に適用されるべきものである。

右のような限定解釈に立つた場合、本件争議行為は、その形態、規模、影響の度合に照らし国民生活全体に重大な支障を与えたものとはいえず、仮に違法性を論ずるとしても極めて弱いものであるから、いまだ公労法一七条一項の禁止する争議行為に該当しないというべきである。

(三) 公労法一八条は憲法二八条、三一条に違反する。

公労法一八条は同法一七条一項違反の行為をした職員への制裁として「前条に違反する行為をした職員は、解雇されるものとする。」と定めている。違法な争議行為に対する責任追及は争議行為の性格と内容に対応した合理的なものでなければならない。

公労法一八条の制裁規定は以下のとおり極めて合理性を欠き、憲法に保障された団結権を著しく侵害するものである。

争議行為は、その性質上、これに参加した個々の組合員の行為の単純な集積や総和ではなく、労働組合の団結を基礎とした統一的集団的行動であることを本質としている。そして公労法一八条による責任追及は争議行為における個々の組合員の違法な行為を問題とするものではなくして、その争議行為全体の違法、すなわち集団的労働関係にある団体としての違法な活動を対象としている。したがつて、違法な争議行為に対する制裁も団体自体を対象としたものでなければならない。しかるに公労法一八条が争議行為について解雇という形式でそれに参加した組合員の個人責任を追及していることは全く合理性を欠くものであり、憲法の団結権保障の法理に著しく反するものである。

また、全逓中郵事件判決は前記のとおり制限違反の争議行為に対する制裁についても合理性の認められる必要最少限度の原則が守られるべきことを説示した。ところが、公労法一八条の制裁規定は、その規定を字句どおりに解釈すれば、公共企業体の職員は争議行為に参加した場合、当該争議において果した役割、その行為の与えた影響や結果の如何を問わず、すべて解雇という重大な制裁を受けてもやむをえないこととなつている点において、合理性の認められる必要最少限度をこえており、しかも解雇の決定権者は労働関係の対立当事者としての公共企業体等であつて、使用者たる公共企業体等に禁止違反者への制裁としてつねに解雇という報復手段を許容している点においても合理性のある必要最少限度をこえている。

そうすれば、公労法一八条は右の点において憲法二八条、三一条の趣旨に反し違憲であり、したがつて、同条に基づく本件解雇もまた違憲無効である。

(四) 公労法一七条一項後段の「共謀」「そそのかし」「あおり」等の行為は、争議為行に通常随件するものであるかぎり、公労法一八条の適用対象とされない。

仮に公労法一八条が違憲でないとしても、憲法の労働基本権保障の趣旨と前述の争議行為の集団的統一的性格と団体責任性に照らすと、公労法一八条は、同法一七条一項後段の争議行為の共謀、あおり、そそのかし等の行為が、同条一項前段に違反する争議行為を対象として、通常の組合活動を逸脱する違法性の強い手段方法によりなされた場合に限定して解釈適用されなければならない。したがつて、争議行為に通常随伴するものと認められるあおり行為については公労法一八条に基づき解雇の対象とすることは許されない。

前記のとおり本件争議行為は動労中央本部が企画、指令、指導したものであり、申請人らは中央本部の決定に基づき天王寺地本役員としての任務を忠実に履行しただけであつて、申請人らの前記行為に通常随伴する行為であり、違法性の強い手段方法により本件争議行為に関与したものではないから、申請人らは公労法一八条を適用することはできない。

そうすると、本件解雇は公労法の解釈適用を誤つたもので無効である。

(五) 本件解雇は労働組合法七条一号、三号に該当する不当労働行為である。

被申請人は、動労の組合活動を嫌悪し、いわゆるマル生産運動を中心とする一貫した組合分断政策を今日まで継続してきている。申請人らは被申請人の組織分裂攻撃に対し、動労の組織を守り、組合員の生活と権利を守るために活発に活動してきており、本件争議行為は正当な労働基本権の行使にほかならない。本件解雇もまた、本件争議行為に対する申請人らの責任追及に名を藉り、実際は動労組織に対する攻撃の一環としてなされたものであつて、申請人らの活発な組合活動を嫌悪した不利益取扱であり、動労の組織を弱体化しようとするものである。

したがつて、本件解雇は労働組合法七条一号、三号に該当する不当労働行為であり、無効である。

(六) 本件解雇は権利の濫用として無効である。

最高裁は、昭和四三年一二月二四日判決(全電通千代田丸事件)において、公労法一七条違反に対する制裁としての同法一八条の解雇権の行使について「職員の労働基本権を保障した憲法の精神に照らし、また職員の身分を保障した公社法の趣旨に照らし、必要な限度をこえない合理的な範囲にとどめなければならず、これを逸脱する解雇処分は合理性、妥当性を欠き、無効である。」と正当に判示した。

このような見地に立つて本件解雇をみると、前述のとおり、本件争議行為は動労中央本部が企画決定し、その実施を指令したものであつて、申請人らは直接これに関与しておらず、また争議を指導した責任者でもなく、その行動は本件行為の成否に影響する程の役割を果したとは到底いえないものである。それにもかかわらず、被申請人が申請人らを解雇したのは、本件争議行為の責任者である中央闘争委員等は既に過去において解雇処分を受けているので、下位の組合役員である申請人らにまで責任を波及させたものにほかならない。本件解雇は、本件争議行為における申請人らの行動との比較において著しく合理性を欠き、裁量権の範囲を逸脱して必要な限度をこえる制裁を課したものであり、権利の濫用として無効というべきである。

(申請人らの主張に対する被申請人の反論)

一、申請人らが本件争議行為を企画し、その実施を指導したことにつき次のとおり敷衍する。

申請人らが本件争議行為を企画したか否かは動労の規約上闘争方針に関する決定権限がどこにあるかにより判定されるべきものではない。すなわち、争議行為は法律行為と異なり、参加組合員が共同して行なう事実行為である。そして一定の争議行為の大綱が順次具体化され、最終的に各組合員の具体的行動として争議行為が実現されるに至るまでには、指令が組合の中央・地本・支部および組合員まで順次下部機関に有機的関連をもつて具体的な形で伝達されるのであるが、同時にその間各段階における組合の執行機関を構成する役員等による争議行為の計画、準備、指導ないしは組合員をして争議参加の決意を生じさせ、またはその決意を強固にする諸行為の介在なくしては共同事実行為としての争議行為は現実に成り立ち得ないものである。本件争議行為も右同様の経過手段により実施されたものであり、具体的には前述のとおり申請人らは本件争議行為について天王寺地本としての闘争戦術の企画決定に参画したものである。

また、申請人今出は前述のとおり、新宮機関区において多数の組合員を集めて決起集会を開催するなど同機関区の闘争を指導したことは明白であり、その結果同機関区においてストライキが実施され、新宮機関区から乗務すべき乗務員らが欠務し、現実に業務阻害が発生したのであるから、新宮機関区が申請人らのいわゆるストライキ突入拠点であつたか否かは申請人今出の責任を左右するものではない。

二、公労法一七条一項、一八条の合憲性および限定解釈について

公労法一七条一項、一八条の規定が憲法に違反しないこと、および同条項の解釈について申請人ら主張のような限定解釈によるべきでないことは最高裁昭和四八年四月二五日判決(いわゆる労働三事件大法廷判決)の論旨によりすでに明白である。

三、本件争議行為は公労法一七条一項の禁止する争議行為に該当する。

本件争議行為は、仮に申請人ら主張の限定解釈によつたとしても、その態様、規模において強度の違法性を有し国民生活に重大な障害をもたらしたことが明らかである。

国鉄の業務は、国民生活に密接な関連を有し、高度な公共性をもつが、就中動力車乗務員の職務は国鉄業務の中枢をつかさどるものであるから、その担当職務は最も公共性が強いというべきであり、動力車乗務員の争議行為はその規模、態様のいかんによつては、国民生活に重大な障害をもたらすことがある。国鉄職員の争議行為で国民生活に重大な障害をもたらすものの基準を考えた場合、それを規模の面からみれば長時間、相当広範な地域にわたる争議行為、態様の面からみれば列車、特に私鉄の輸送等によつて代替不可能な長距離列車等の運行を阻害するおそれのある争議行為がこれに当ることは明白である。

本件争議行為の経過、規模、影響の詳細は前述のとおりである。本件争議行為は、午前三時から午後七時一〇分まで一六時間一〇分の長時間にわたり、戦術的に効果の大きい線区別闘争の方針により紀勢本線の三機関区で広範囲に実施された。右闘争の結果、運休旅客列車八二本、同貨物列車二九本、遅延旅客列車二一本、遅延最長時間二時間〇五分という多数の列車の運行を阻害する事態を生じた。拠点とされた各機関区の属する紀勢本線は紀伊半島唯一の交通機関であり、特に運休列車の中には特急、急行等の長距離列車も多数含まれており、旅客、荷主、公衆に及ぼした迷惑は未曾有のものであつた。

そうすると、本件争議行為は国民生活に重大な障害をもたらしたもので、公労法一七条一項の争議行為に該当することは明白である。

四、本件解雇が不当労働行為に該当するとの主張を争う。

五、本件解雇が権利の濫用に該当するとの主張を争う。

周知のように、国労、動労両組合は、公労法により禁止されているにもかかわらず、毎年ストライキ等の争議行為を実施し、しかもその規模は年々拡大の傾向にある。天王寺鉄道管理局管内では、動労は昭和四三年三月二日合理化反対闘争と称する半日ストライキを行ない、右闘争の結果、関西本線を中心に運休列車五四本、遅延列車三七本という影響を生じた。右争議行為により、当時も天王寺地本役員であつた申請人両名は、それぞれ停職一二ケ月の処分を受けた。

本件闘争は、その規模および影響において昭和四三年の前記ストライキを著しく上廻るものであつた。申請人らが天王寺地本段階における右争議行為の計画指導とその規模影響について責任を負うのは当然である。そして前述の本件争議行為における申請人らの具体的行動とストライキの影響に照らし本件解雇処分は何ら不当なものではない。

第三  疎明関係<略>

理由

(本案前の抗弁に対する判断)

一被申請人国鉄は、従前国家行政機関によつて直接運営してきた鉄道事業を中心とする事業をそのまま引き継いで経営し、その能率的な運営によりこれを発展させ、もつて、公共の福祉を増進することを目的として設立された公法上の法人であり(国鉄法一条、二条)、その資本金は全額政府の出資にかかわり(同法五条)、その事業の規模が全国的かつ広範囲にわたるものであることなどの顕著な事実を考え合わせると、国鉄はそれ自体高度の公共性を有するものであるといわなくてはならず、この点から、事業の運営、役員の任免、予算、会計等に関して、国家機関から種々の法律上の規制を受けている(同法一四条、一九条、二二条、四章、五〇条、五二条等)、しかし、被申請人国鉄が右のように高度の公共性を有する公法人であるということから、直ちに被申請人とその職員の勤務関係が公法関係であるとなしえない。むしろ、国鉄は、一般私企業によつても経営され得る鉄道事業等の経済的活動をその事業内容とし、その活動は公権力の行使たる性格を有せず、しかも人格の点において国家行政機関から完全に分離した独立法人とされており、前述の国家機関による種々の規制もなお国鉄の営む鉄道事業の沿革と規模に徴し監督的、後見的立場からおかれものと解されることに鑑みれば、国鉄またはその機関が本質的に行政庁たる性格を有し、その行為が行政処分ないしそれに準ずる性格を有するものとはとうてい認めることはできない。

二もつとも、国鉄が本質的には行政庁ないし行政機関たる法的性格を有するものではないにしても、高度の公共性を有する公法上の法人である以上、一般の私企業と別異の法的地位を与えられることはもとより可能である。従つて、国鉄とその職員との勤務関係についても、実定法規によつて特にこれを公法的規律に服するものと取り扱い、国鉄またはその機関を行政庁に準ずるものとして、その行為を行政処分に準ずるものとすることが許されないわけではない。すると、被申請人国鉄とその職員との勤務関係の性質は結局のところ、実定法の規律の仕方によつて定まると解されるから、以下において、関連する実定法の規定について検討することとする。

まず国鉄法二七条ないし三二条によると、職員の任免の基準、給与、分限、懲戒、職務専念義務等に関する事項につき国家公務員に関するものと類似の規定をし、同法三四条一項で職員を法令により公務に従事するものとみなす旨規定し、公労法一七条一項では職員および組合の争議行為を禁止しているところ、右各規定に徴すれば国鉄職員が一面国家公務員と同様の取扱を受けていることは否めない。しかしながら、国鉄法二七条ないし三二条の規定は、国鉄が高度の公共性を有することに鑑みて特に法律によりその職員の任免、給与、服務の基準の大綱を定めるとともに右職員につき一定の事由がない限り分限、休職、懲戒という不利益処分を課しえないこととしたものと解し得るし、使用者が従業員の勤務関係に関する自らの権限を自律的に制限する事例は私企業の就業規則等にもしばしば見られるところであるから右規定の存在をもつて国鉄職員の勤務関係を公法関係と解すべき十分な論拠とすることはできない。また国鉄法三四条一項は国鉄職員を法令により公務に従事する者とみなす旨規定しているが、これは国鉄の高度の公共性にかんがみ、刑罰法規の適用について、とくに国鉄職員を公務員と同視し、その職務の執行を保護するとともに、職務の遂行にあたつては公務員と同様の廉潔性を保持すべき旨を命じたものと解釈することができ、直ちに国鉄職員の勤務関係の全般が公務員と同様の規律に服することまで規定したものと認めることはできず、このような「みなし規定」を置いたこと自体、国鉄職員が一般の公務員とは異なることを前提にしているともいえるのである。更に公労法一七条一項において国鉄職員が争議行為を禁止され、一般私企業の従業員と異なつた取扱を受けているのは、その身分を国家公務員と同視したためではなく、国鉄事業の高度の公共性に由来すると解すべきものであるから、これまたその勤務関係を公法関係と認める根拠とするには足りない。

他方、国鉄法三四条二項は役員および職員には国家公務員法は適用されない旨規定し、同法三五条においては国鉄職員の労働関係に関しては公労法の定めるところによるとされ、公労法八条は国鉄職員の労働組合に対し、賃金その他の給与、労働時間、休憩、休日および休暇に関する事項、昇職、降職、免職、懲戒等の基準に関する事項、その他労働条件に関する事項等について広汎な団体交渉を認め国鉄当局と対等の立場においてこれらの事項に関し労働協約を締結し得る地位を保障し、同法二六条ないし三五条には国鉄当局と職員との間に発生した紛争について、あつせん、調停、仲裁の制度を規定しており、不当労働行為については公労委による救済が認められている(公労法三条、二五条の五)のである。これらの点において国鉄職員の勤務関係と国家公務員との間には著しい差異が存するものというべく、法は基本的には国鉄とその職員の関係を対等当事者の関係として規律しているものとみないわけにはいかない。

もつとも、国鉄職員の勤務関係はいわゆる五現業の国家公務員のそれに類似することは明らかであるところ、右現業公務員は国鉄職員と同様公労法の適用を受け、国鉄職員と同様の団体交渉権および労働協約締結権を認められ、発生した紛争についてはあつせん、調停、仲裁の制度が、不当労働行為については公労委による救済が認められる(公労法二条、三条、八条、二五条の五、六章。ただし、その関係において国家公務員法の適用が一部排除されている。同法四〇条)にかかわらず国家公務員たる地位を与えられているのであるけれども右現業公務員は国の行政機関に勤務する点に国鉄職員と差異があるばかりでなく、右適用を排除された一部の規定を除いてはことごとく国家公務員法の適用を受けるものとされているのであるから、実定法上両者が全く同一に取り扱われているのでないことは明らかである。そうとすれば、右の点はいまださきの判断を左右する理由とはならない。また、国鉄法三一条はその職員の懲戒を行なうものを被申請人の総裁と定めているが、右規定は懲戒権の行使が国鉄の内部規律の保持に関する問題であり、その性質上迅速かつ統一的な処理を必要とするため国鉄の代表者である総裁に対し特に決定権を与えたのにすぎず、懲戒権行使の実質的な主体は被申請人国鉄であると考えられるから、右規定があるからといつて国鉄総裁が行政庁たる性格を有するものとしあるいは被申請人とその職員との勤務関係が公法関係であるとすることはできない。

その他に、被申請人とその職員との関係を公法的規律に服さしめていることを窺わせるに足りるような実定法規は見い出せない。また、公労法一八条に基づく解雇処分につき、実定法規が特にこれを行政処分ないしそれに準ずる性格を有する処分であるとの趣旨を明らかにしているとも認めることができない。

三以上検討したところを総合すれば、被申請人の職員と被申請人との服務関係の本質は公法関係でなくして私法関係であると解するのが相当であり公労法一八条に基づく本件解雇処分も行政事件訴訟法四四条にいわゆる行政庁の処分でなくして一般私法上の意思表示であると解すべきものである。そうすれば、本件解雇について仮処分が許されないとする被申請人の本案前の主張は採用することができない。

(本案に対する判断)

第一当事者間に争いのない事実

被申請人が国鉄法に基づき鉄道事業を経営する公共企業体であり、申請人らはいずれも被申請人に雇用された職員であり、かつ動労組合員であつて、本件解雇処分当時、申請人山出は動労天王寺地本書記長、同今出は同地本執行委員の地位にあつたこと、被申請人が申請人らに対し昭和四六年七月一五日付で「動労が昭和四六年五月二〇日天王寺地本を拠点本部として実施したストライキについて申請人らはいずれも右闘争を計画するとともに、現地最高責任者として右闘争を実施させ、国鉄業務の正常な運営を阻害した」として公労法一七条一項、一八条に基づき解雇の意思表示をしたことは当事者間に争いがない。

第二本件解雇の効力についての判断

一本件春闘争議の経過等

(一) 動労の組織および運営の形態

<証拠>によれば、次の事実が認められる。

動労は、被申請人の職員中動力車に関係ある職務に従事する者で組織され、中央執行委員会で構成される中央本部以下、地方本部(各鉄道管理局およびこれに準ずる範囲ごとに設置)、支部(機関区、電車区、気動車区その他動力車に関係ある業務機関ごとに設置)、地方評議会(支社相当地域に設置するもので、各地方本部間の統制および連絡調整を行なう協議機関)等の機構をもつて成り、中央機関として、大会(組合の最高議決機関で、代議員、中央本部役員で構成)、中央委員会(大会に次ぐ議決機関)、中央執行委員会(大会と中央委員会の決議を執行するほか、緊急事項を処理すること、大会または中央委員会の決議の範囲内で組合員に指令する等の権限を有する)があり、地方本部機関として、地方本部大会、地方本部委員会、地方本部執行委員会があり、地方本部機関の構成、任務等は中央機関に準じ、支部の組織もほぼ同様である。そして、労使紛争等が生じて不測の事態が予測されるときは、大会または中央委員会の決議により、中央闘争委員会が設けられ、闘争期間中、中央執行委員会の闘争に関する権限が委譲される。中央闘争委員会は、大会または中央委員の重大な闘争に関する決議を執行するとともに、大会または中央委員会の決議の範囲内で闘争手段を決定し、中央闘争委員長がこれを直接組合員に指令し、組合員はこれに従う義務を負う。地方本部、支部においても、闘争時には右に準じて地方本部、支部各闘争委員会が設置される。中央闘争委員会の右闘争指令は、具体的には各地方本部、支部を経由してその所属組合員に伝達されるが、各地方本部、支部はその闘争指令に変更を加えたり、別個独自の決定をしたりすることは許されない。また、組合規約上の組織ではないが、中央本部の運営上闘争時において具体的な闘争戦術を決定していくため中央闘争委員会の中に戦術委員会(戦術会議)が組織される。そして全国的な闘争時には現地指導のため中央闘争委員会より中央闘争委員が現地に派遣され、右中央闘争委員を一般に派遣中闘と呼称する。派遣中闘は、中央闘争委員会で決定した範囲内の権限を付与され、現地の闘争拠点において闘争遂行上の最高責任者となり、地方本部または支部はその指揮下に入るので、地方本部または支部の役員は、派遣中闘の指令に服し、これを変更したりあるいは独自に指令を発する権限を有しなくなる。

(二) 本件春闘争議の経過

<証拠>を総合すると次の事実を認めることができる。

1 動労中央本部における春闘方針の決定

(1) 動労は昭和四五年七月長野県で開催した第二四回定期全国大会において大巾賃上げ獲得、国鉄財政再建一〇ケ年計画による合理化反対等の運動方針の大綱を決定し、昭和四六年度賃金要求に関し、賃金闘争における公労委等第三者機関への依存から脱皮して労使の力関係で決める本格的賃金闘争に移行し、全交通(私鉄総連を含む交通関係組合の共闘組織)、公労協(三公社五現業関係の公共企業体労働組合で構成)との共闘体制を強化することを決定した。そして動労は昭和四六年三月五日から第六七回中央委員会を開催し、第二四回全国大会の前記決定の趣旨を受けて、大巾賃上げ獲得および当時国鉄当局が推進していた生産性向上運動の中止と右運動に伴う不当労働行為の根絶を同年春闘の主要目標とし、新賃金改訂に関しては平均一万九、〇〇〇円の賃上げを要求するとともに、その闘争方針として、全交通、公労協との共闘のもとに反覆スト体制を強化すること、四月下旬に春闘ストライキの批准投票を実施すること、ストライキ配置の規模は全一日ストを基本として中央闘争委員会で決定し、最終的には全国代表者会議で確認すること、賃金闘争決着の山場は四月下旬から五月上旬を目途とし、全一日ストライキ配置の体制を確立することなどの闘争大綱を決定し中央本部は右中央委員会終了後直ちに中央闘争委員会を発足させた。

(2) 動労中央本部は、右中央委員会の決定に従い、三月二〇日国鉄当局に対し、動労組合員の賃金を昭和四六年四月一日以降一人平均月額一万九、〇〇〇円の源資をもつて引き上げることを骨子とする賃金改訂要求を申し入れ、同日国鉄当局と第一回団体交渉を行ない、組合要求の主旨を説明し、以後五月一五日まで九回にわたり新賃金問題に関する団体交渉を重ねた。国鉄当局は三月二三日組合側に対し、国鉄財政が悪化していることを理由として二三項目からなる当面の合理化案を提示したが、三月三一日開催の第二回団体交渉の席上、賃金改訂の検討にあたつては生産性の向上に対する組合の協力が必要であり、従つて新賃金金問題については当局が提案中の合理化事案の交渉進展状況をまつて交渉したいとの新賃金問題の交渉に臨む当局側の基本的態度を表明した。これに対し動労は、新賃金問題と合理化問題は切り離すべきであると主張し、賃金改訂の団体交渉は当初からその交渉方法をめぐつて対立を生じ、その後団体交渉は四月二二日、二八日と引続き開かれたが当局側は交渉のもち方に対する基本的態度を変えず、合理化事案を先決するかどうかの点をめぐつて労使双方が対立したまま推移した。そして同月二七日に至り国鉄を除く他の二公社五現業当局が賃上げに関し五%プラス一、七〇〇円の有額回答を示した後においても、国鉄当局は従前の態度を堅持したため、同月三〇日、五月七日、一三日一四日、一五日と引続きもたれた団体交渉は何らの進展を見ないまま経過し、遂に組合側は同月一五日新賃金問題に関する交渉をこれ以上継続しても自主的解決は困難であるとして右事案の団体交渉の打切りを通告し、同日をもつて同事案に対する団体交渉は事実上決裂するに至つた。

動労は、右のとおり団体交渉が決裂をした後、公労協内部での意見調整の結果にしたがい、公労委の調停の場で右交渉を継続するべく、五月一七日公労委に調停申請を行なつた。公労委調停委員会は即日労使双方から事情聴取を行ない、その結果国鉄当局が賃上げに対する具体的回答を明らかにしないかぎり調停作業の進行は困難であるとして、労使双方に調停が可能となるよう努力を要請したが、国鉄当局はこの段階に至つても合理化事案先決の態度を変えず、賃上げに対する具体的回答を依然として留保したため調停作業は全く進度をみなかつた。

2 天王寺地本における春闘方針の決定

天王寺地本は、動労傘下二九地方本部の一で、下部組織として九支部(亀山、奈良、王寺、伊勢、竜華、新宮、紀伊田辺、和歌山、鳳)を有し、昭和四六年五月当時所属組合員約二、二五〇名を擁していた。その組織の範囲は、国鉄天王寺管理局管内の業務機関中、亀山、奈良、王寺、伊勢、竜華、新宮、紀伊田辺、和歌山の各機関区および鳳電車区に所属する組合員から成り、右業務機関には紀勢本線、阪和線、奈良桜井線、和歌山線等の列車幹線が属する。昭和四五年度天王寺地本役員には、地方本部大会で長瀬繁一が執行委員長に蔵城仁が執行副委員長に、申請人山出が書記長にそれぞれ選出され、地本執行委員会は、右組合三役および地本執行委員四名で構成されていた。なお闘争時には前記のとおり地本闘争委員会が設置されるが、闘争委員長には執行委員長があたり、その余の執行委員会構成員も闘争委員に就任することが地本規約に基づく闘争委員会規則上定められており、右闘争委会は地方本部大会または地方本部委員会の決議の範囲内で闘争手段を決定して闘争委員長が組合員に指令することになつていた。

天王寺地本は、第六七回中央委員会の決定に基づき、三月一九日から天王寺地本第四四回定期委員会を開催し、大巾賃上げ獲得等を闘争の目標として、右中央委員会の決定内容を地方本部として強力に推進することを確認するとともに、これにもとづく同地本の春闘体制を具体的に確立するため「中央委員会の決定に従い地本委員会終了後直ちに地方本部闘争委員会を発足させる。各支部は三月中に支部委員会を開催し、地方本部に準じて支部闘争委員会を設置する。三月二五日から四月五日までを組織強化特別旬間とし、四月中旬に実施される春闘ストライキ批准投標の成功を図るため、組合員に対するオルグ活動を実施する。ストライキの規模は全一日ストライキを基本戦術として全国代表者会議で決められるので、地方本部はこれに関連して地本代表者会議、戦術委員会などを開催して対処する。ストライキ実施の場合は国労との共闘で闘う。」などの方針を決定した。

3 闘争体制の確立

動労は、前記のとおり賃金改訂に関する団体交渉を国鉄当局と重ねる一方、団体交渉による自主的解決が進展しない情勢のもとに、国鉄当局に対し、ストライキをもつて賃上げ要求に対する有額回答を迫るべく、次のとおり闘争体制を確立していつた。

(1) 中央本部のスト体制

① 動労は、一般組合員の春闘ストライキ参加の意思を確認するため、各組合員にストライキの賛否を問う投票を求め、四月一二日から同月一六日までの間春闘ストライキ批准一票投標を実施し、同月一九日集約(投票率90.1%)の結果、投票率を基準にしたストライキ賛成率は72.8%(組合員総数に占める割合は65.6%)に達した。そこで動労中央本部は、第六七回中央委員会の決定に基づき、四月二一日、全国から各地方評議会および地方本部の代表者三五名を集めて、全国代表者会議を開催し、中央委員会以降の春闘情勢についての意思統一を図るとともに、闘争の具体化について検討した結果、中央本部の基本的戦術配置ならびに具体的闘争方針の大綱を承認して、同月二三日順法闘争(公労協第一次統一行動)、同月三〇日順法闘争(公労協第二次統一行動)、五月上旬全交運統一行動、五月中旬全交運、公労協統一ストライキを設定し、全交運、公労協統一ストライキには主要幹線を指定したストライキならびに強力順法闘争を実施することなどを確認し、これに基づき中央闘争委員長は、四月二二日中央本部闘争指令第一五号「春闘四・三〇全国統一行動の実施と決戦段階にむけてのスト体制の確立について」を各地方評議会議長、地方本部闘争委員長に発し、公労協統一行動の実施ならびに五月七日以降順法闘争、ストライキ実施の準備体制の確立を指令した。

② その後、四月三〇日中央闘争委員会を開催し、春闘情勢の進展に対応して、五月八日派遣中闘出席のもとに各ブロック別戦術会議を開くこと、五月一四日公労協第三次統一行動(順法闘争)を設定すること、五月一八日〜二〇日を目途に順法闘争とストライキの併用により賃金闘争の決着を図る準備体制を確立することを決定し、中央闘争委員長はこれに伴う具体的行動を各地方本部に指令した。

次いで、動労中央本部は、五月六日国労と春闘共闘委員会を開催し、五月一八日〜二〇日の全日波状ストの闘争方針を確認し、細部の戦術調整を行なつた後、中央闘争委員会を開き、五月八日の各ブロック別代表者会議に右闘争方針を提起することを確認するとともに、ストライキ準備地方本部を旭川、宇都宮、千葉、東京、静岡、天王寺、福知山、態本地方本部とし、スト突入拠点の具体的指定は国労との調整を経て五月一四日前後に行なうことおよび現地闘争指導のため中央闘争委員の現地派遣等を決定し、右派遣中闘は五月八日開催された各ブロック代表者会議において各地本代表者に対し右中央闘争委員会の決定を伝達した。

③ その後新賃金問題に関する団体交渉が空転する中で、動労中央本部は、五月一二日、一四日に国労と共闘委員会を開催し、五月一八〜二〇日の全日反復ストライキの実施を正式に確認するとともに、スト突入線区を決定した。そして、五月一四日開催の中央闘争委員会においてこれを確認了承したうえ、同日中央戦術会議を開き、国労との戦術調整にもとづく前記ストライキ準備指定の各地方本部におけるストライキ突入準備拠点(支部)をそれぞれ決定し、これにもとづき中央闘争委員長は、同日中央本部闘争指令第二二号により五月一八日以降順法闘争を行なうことおよび天王寺地本ほか五地方本部は同日以降別に指定する地区でストライキを実施する準備体制を確立することなどを指令し、これと別に、現地派遣中闘に対しストライキ準備拠点の指定等戦術の詳細を伝達指示した。

(2) 天王寺地本のスト体制

天王寺地本は、前記のとおり第四四回定期委員会において第六七回中央委員会の決定方針を確認した後、三月二〇日地本闘争委員会を発足させ、長瀬委員長が同地本闘争委員長に、申請人らが同闘争委員に就任し、それ以後中央本部のストライキ指令に至るまで次のとおり闘争体制を確立していつた。

① 四月二八日、全国代表者会議の決定をうけて、傘下各支部代表者を集め、天王寺地本代表者会議を開催した。右会議は組織規約上の権限を有しないが、地方本部の闘争方針等を伝達し意思統一を徹底する機関として設置されているものであり、同日の会議では全国代表者会議の前記確認事項が報告され、ストライキ体制準備に関する地方本部としての意思統一が図られた。

② 次いで、天王寺地本は、全国代表者会議の確認にもとづき、四月三〇日国労南近畿地方本部と折衝の上両地本役員により構成される地方共闘委員会を設置し、地方本部段階における春闘共闘体制を確立した。

③ 五月八日、動労関西地方評議会所属の各地本代表者を集め、中央本部指令に基づく関西ブロック代表者会議を開催し、同会議において、出席した中央闘争委員長らより中央交渉の経過および展望が報告されるとともに、五月一八日以降のストライキ実施につき天王寺地本がストライキ準備地本に指定された旨の中央闘争委員会の決定が伝達され、出席者らはこれを確認、了承した。

④ 五月一〇日、天王寺地本闘争委員会を開催し、中央闘争委員会の指令に基づき、五月一四日に公労協第三次統一行動として、同地本において順法闘争を実施することを確認した。

⑤ 五月一二日、天王寺地本代表者会議を開催し、右時点では同地本所属九支部のうちどの支部がストライキ実施拠点となるか、あるいはそのストライキ実施時間はどの程度になるか等は指定されていない段階であつたが、五月八日の関西ブロック代表者会議において天王寺地本がストライキ準備地本となる旨伝達されたことを受けて、右代表者会議においては各支部に対しストライキ突入拠点の指定に備えてストライキ実施の準備体制を具体的に整えることが要請され、相互に意思統一が図られた。

⑥ 前記五月六日の中央闘争委員会の決定により天王寺地本には、小屋原市郎を最高責任者として渡辺健治、奥原信隆の各中央闘争委員が派遣された。中央闘争委員会は、五月一四日天王寺地本に対し前記中央本部闘争指令第二二号を伝達するとともに小屋原派遣中闘と意見調整のうえ、天王寺地本のうち竜華、和歌山、紀伊田辺、新宮各支部をストライキ準備拠点に指定した。翌一五日、中央闘争委員会は、新賃金問題に関する団体交渉決裂後、天王寺地本に対し五月二〇日ストライキを実施する準備体制を確立することを指令し、小屋原派遣中闘は、同日渡辺、奥原各派遣中闘、天王寺地本組合三役らを集めて戦術会議を開催し、ストライキ準備拠点指定に関する前記中央闘争委員会の決定内容を伝達するとともに、国労との戦術調整の問題や各支部の組織体制を検討し、派遣中闘および地本闘争委員の拠点配置方法について意見調整のうえ、各現地最高責任者として、自己を和歌山機関区に、渡辺中闘を新宮機関区に、奥原中闘を紀伊田辺機関区にそれぞれ配置することとし、更に右派遣中闘を補佐させるため、和歌山機関区に長瀬委員長、申請人山出、内田執行委員、紀伊田辺機関区に蔵城副委員長、森田執行委員、新宮機関区に申請人今出、竜華機関区に前田執行委員をそれぞれ配置する旨指示した。そして同日開催された天王寺地本代表者会議において、ストライキ実施日、突入準備拠点に関する派遣中闘の指示および右戦術会議の決定を確認し、闘争体制の具体化について意思統一を図つた。そして派遣中闘および天王寺地本派遣闘争委員は国労との共闘体制のもとにストライキを現地で直接指導するため、五月一五日以降順次所定のストライキ準備拠点に赴いた。

(3) 当局側の報告

組合側の以上の如き争議行為体制の確立に対して国鉄当局は五月一三日磯崎国鉄総裁が「労働組合の当面の動向に関し、職員諸君に訴える」と題し、計画にかかる争議行為は違法行為であるとして全職員にその中止を求める訓示をなし、また天王寺管理局でもその頃管理局長名で管内全職員にあるいは天王寺地本執行委員長に対し同様の訓示ないしは申入をなすとともに、争議行為突入に至つた場合には処分のあるべきことを警告し、さらに五月一八日には前記ストライキ準備拠点の各機関区長において各支部委員長に同趣旨の申入および警告を発した。

4 ストライキ突入前後の春闘状況

(1) 五月一七日夕刻開催された国鉄副総裁と国労、動労両委員長間の新賃金問題ならびに生産性向上運動に伴う不当労働行為の根絶等に関するトップ交渉も不調に終り、動労は翌一八日午前零時以降旭川、千葉各地本傘下の拠点でストライキに突入した。そして公労協は、同月一九日戦術会議を開き、二〇日中に賃金紛争に決着をつける態度を堅持して同日最大限の統一ストライキを実施することを再確認した。一方公労委も一九日午後五時五〇分頃、三公社五現業の賃上げ紛争を一括処理するため同月一七日、一八日と重ねて開催してきた合同調停委員会の調停委員長会議を開催し、今後の調停作業の進め方を協議した結果、国鉄当局の賃金回答に対する進展を待つということで、一旦休憩に入つた。

(2) 国鉄労使は、一九日午前一一時頃から、新賃金交渉とは別に、当局が賃上げ回答の前提とする合理化事案等について交渉を続けたが、右事案中には多年の懸案事項や重大な労働条件の変更を伴う事項も含まれているため全般的な解決には至らなかつたが、同日午後一〇時頃その時点での進展状況を整理集約したうえ、同日午後一一時四〇分頃に至り国鉄当局は公労委の金子国鉄関係調停委員長に「昭和四六年度の賃金引上げについては他公社、現業との均衡を考慮したい」旨を伝えた。そこで、公労委合同調停委員会は同日午後一一時一〇分頃調停作業の再開を決定し、具体的賃上げ額について精力的に折衝を続けたが、賃上げ額についての労使双方の主張にはかなりの開きがあり、調停作業は難航した。その間国労、動労は二〇日午前零時から東京、静岡各地本傘下の拠点でストライキに突入し、このため新聞輸送列車の運休などストライキの影響が出始め、続いて同日午前四時間後に宇都宮、千葉、天王寺各地本傘下の拠点で次々とストライキに突入した。

(3) 一方公労委合同調停委員会による調停は、一九日から二〇日にかけ徹宵で進められたが、労使双方の主張は平行線をたどり、二〇日午前六時一五分調停委員長が最終的な賃上げ解決案を労使双方に提示したが、労働者側の賛成を得られず、結局調停は不調に終つた。そして同調停委員会は、同日午前九時半頃調停不調を確認するとともに、今後の事態収拾につき近日中に臨時総会を開催することとし、公共企業体等の賃上げをめぐる紛争の解決の場は仲裁に移行することになつた。

ところで、国労、動労を除く公労協七組合は調停が不調となつた後も使用者側回答に対する抗議ストとして二〇日午前一〇時までの時限ストライキを実施した。しかしながら、国労、動労は生産性向上運動に伴う不当労働行為、不当差別の問題が解決していないとして、なおストライキを継続し、右生産性向上運動の問題について二〇日午後二時一五分より国鉄副総裁らと会談をもち、その結果国鉄側から「生産性運動に伴つて生じている諸問題については十分検討する。偏向教育、不当差別、不当労働行為は絶対に行なわない。処分のための処分は行なわない。あくまで慎重を期する。」旨の確認を得たため、同日午後七時頃、決行中のストライキ中止を指令し、その頃同日の闘争は終息をみた。

二本件争議行為の経過とその影響

そこで更に、本件争議行為、すなわち天王寺地本傘下の拠点において実施された争議行為の経過とその影響について具体的に検討するに、前記一(二)冒頭掲記の各疎明ならびに<証拠>を総合すると、次の事実が一応認められる。

(一) 本件争議行為の経過

前記派遣中闘らは五月一五日以降天王寺鉄道管理局管内の各ストライキ準備拠点に赴き、拠点支部において具体的なストライキ体制のための作業に入り、組合員の闘争意思を統一するための職場集会の開催等を指示し、また逐次中央本部の闘争指令を伝達した。そして国労南近畿地本と動労天王寺地本は五月一七日国労和歌山分会事務所内に合同闘争本部を設置し、同本部内にストライキ戦術内容の調整と行動計画を協議する戦術委員会を発足させ、他府県からの組合員の応援を得て、旅館の確保、乗務員の収容等の戦術について完全共闘体制をしき、和歌山地区以外のストライキ準備拠点でも共闘本部を設け、決起集会を開催してスト体制を固めた。一方、天王寺鉄道管理局は、五月一六日頃に至り同月二〇日のストライキ拠点となる管内機関区を把握し、同局内に対策本部、ストライキ拠点の各機関区に各地区現地対策本部をそれぞれ設置し、同月一七日以降右拠点機関区において同月二〇日のストライキ当日の勤務者に対し前記国鉄総裁および天王寺管理局長の訓示書ならびに業務命令書等を手交し、ストライキに参加しないよう説得し、あるいは業務命令書を兼ねた警告書を掲示してスト参加の場合の処分を警告するとともに、前記のとおり各拠点支部に対し二〇日のストライキを中止するよう申入れを行なつた。また当局側はストライキが実施された場合の影響を最少限に阻止するため現地対策本部要員に非組合員を派遣して対処した。この間動労中央闘争委員会は五月一八日天王寺地本に対し中央本部闘争指令第二七号「春闘五・二〇スト実施の準備指定地区について」を発し、竜華、和歌山、紀伊田辺、新宮の各地区におけるストライキ準備体制を指令していたが、翌一九日夜半小屋原派遣中闘は最終的な闘争戦術について中央本部の残留中闘と連絡を取り、ストライキ突入線区は紀勢本線に重点を置くこととし、竜華地区はストライキ拠点から除外すること、国労との完全共闘の方針に基づき国労組合員の少ない新宮地区は他機関区からの乗入乗務員による指名ストライキに戦術ダウンすることの了解を得た。そして国労山崎派遣中闘、動労小屋原派遣中闘を最高責任者とする合同闘争本部は、ストライキの実施方法は全組合員の自主参加方式に基づき、ストライキ突入の場合は列車乗務員の乗務放棄、非乗務員による始業点検、修理作業の拒否等の闘争戦術をとることを確認し、列車乗務員がストライキ前日である五月一九日の乗務を終えた時点以降において、当局側が乗務員らに業務を説得するなどの行為に出てくることがあるのを予想して、ストライキ参加組合員を予め用意した旅館等の宿泊場所に収容するなどストライキ突入体制をととのえた。こうした情勢の中で、動労中央闘争委員会は、公労委の調停作業が進展しない状況にかんがみ、一九日午後一〇時頃ストライキ突入を決定し、国労との共闘委員会で突入時間などの戦術調整を行なつた後、天王寺地本に対し、和歌山、紀伊田辺、新宮の各地区において二〇日午前四時前後を基準にストライキに突入せよとの指令を出し、この本部指令により小屋原派遣中闘は、合同闘争本部の戦術委員会で最終的な戦術調整を行なつたうえ、各拠点に対し順次ストライキ突入を指示した。

各闘争拠点におけるストライキ実施の経過は次のとおりである。

1 和歌山機関区

本件争議行為前日の五月一九日午後四時四五分頃共闘本部の国労山崎派遣中闘、同南近畿地本山口書記長、動労小屋原派遣中闘、同天王寺地本長瀬委員長および申請人山出は、当局側との交渉等の便宜上組合側の組織責任体制を通告するため、和歌山機関区長室に赴き、当局側の和歌山地区現地対策本部長茂原弘明(天王寺鉄道管理局運転部長)に面談を申し入れた。ついで共闘本部は一九日午後九時頃共闘本部前に組合員約五〇〇名を参集させて決起集会を開催し、その席上、前記派遣中闘、各地本委員長らがストライキへの決起と団結を要請した。

そして中央本部のスト突入指令の発出により、五月二〇日午前二時五三分国労山崎、動労小屋原各派遣中闘、出口、長瀬各地本委員長は現地対策本部に赴き、前記茂原本部長に対し和歌山機関区において午前三時からストライキに突入する旨を通告し、茂原本部長よりストライキの中止を求められたが、これを無視し右通告どおりストライキに突入した。和歌山機関区では同日午前三時から午後七時まで一六時間にわたりストライキが実施され、当日乗務すべき列車乗務員一四三名(和歌山機関区所属乗務員一二四名、他機関区所属乗務員一九名)、地上勤務者三〇九名が職場を離脱し、あるいは職務を放棄して出勤せず、最短三八分から最長一四時間二三分それぞれ欠務し右状態は動労のスト中止指令により午後七時右ストライキが終結するまで継続した。この間和歌山地区現地対策本部長および和歌山機関区長は同日午前六時頃組合に対しストライキの中止ならびに職場離脱した組合員の職場復帰を求めたが、組合側はこれを拒否した。そして、午後六時四〇分頃中央本部からスト中止指令が発出されるに及び、前記共闘本部前に組合員約五〇〇名を集結させてストライキ集約大会を開き、闘争成果を確認した後、前記のとおり午後七時ストライキを中止し、組合員は職場に復帰した。

2 紀伊田辺機関区

本件争議行為における紀伊田辺地区現地最高責任者奥原派遣中闘は、天王寺地本蔵城副委員長とともに、五月一九日午後二時一五分紀伊田辺機関区長室に赴き、同地区現地対策本部長福田正之(天王寺鉄道管理局営業部長)に対し、本部指令に基づきストライキ準備中である旨を通告し、これに対し福田本部長は右ストライキの違法なる旨を告げ、その中止を求めたが、奥原派遣中闘はこれを拒否した。そして国労、動労共闘本部は同日午後七時六分同機関区車庫内に組合員約三〇〇名を集めてストライキ突入の決起集会を開催し、中央本部のスト突入指令により、五月二〇日午前三時三八分奥原派遣中闘らは現地対策本部に赴き、福田本部長に対し紀伊田辺機関区においてストライキに入る旨を通告し福田本部長よりスト中止を重ねて警告されたが、これを無視した。そして組合は直ちにストライキに突入し、同日午後七時二〇分までストライキが実施され、その結果紀伊田辺機関区では当日乗務すべき列車乗務員八四名(紀伊田辺機関区所属乗務員七四名、他機関区所属乗務員一〇名)、地上勤務者五五名がストライキに参加し、職場を離脱しあるいは職務を放棄して出勤せず、最短一時間三一分から最長一二時間三七分それぞれ欠務した。

3 新宮機関区

新宮地区現地最高責任者である小川国労関西地評副議長と渡辺動労派遣中闘は、五月一七日、動労新宮支部事務所に共闘本部を設置し、翌一八日正午新宮機関区において列車乗務員ら組合員約三〇名を集め、職場集会を開催し、春闘中央交渉の経過を報告するとともに、ストライキへの協力を要請する挨拶を行なつた。そしてストライキ前日の五月一九日午後二時五〇分渡辺派遣中闘と申請人今出の両名は、新宮機関区長室の当局側同地区現地対策本部に赴き同本部長吉野一雄(天王寺鉄道管理局電気部長)に対し、中央本部の準備指令によりストライキ準備中である旨を通告し、その際吉野本部長は渡辺派遣中闘に対しストライキ回避を申し入れたが、同中闘はこれを拒否した。そして共闘本部の渡辺派遣中闘らは同日午後七時新宮機関区乗務員宿泊所前に約一四〇名の組合員を集結させ、ストライキ決起集会を開催し、ストライキへの決起と団結を要請した。同日夜半渡辺派遣中闘が小屋原派遣中闘と連絡を取つたところ、小屋原派遣中闘は新宮地区はストライキ準備体制を維持したまま待機するよう指示したので、和歌山紀伊田辺地区がストライキに突入した後も新宮支部組合員は所定の勤務に就労していたところ、合同闘争本部の戦術委員会は、新宮地区のストライキは紀伊田辺機関区所属で新宮機関区から当日乗務すべき乗務員による指名ストにより実施する旨決定しその旨の指示を発した。右指令に基づき渡辺派遣中闘、申請人今出らは二〇日午前五時一四分現地対策本部に赴き、吉野本部長に対し午前五時一五分から出勤となる紀伊田辺機関区所属乗務員を対象にストライキに入る旨を通告し、これに対し吉野本部長はストライキは違法であり直ちに中止するよう重ねて厳重に警告したが、右通告どおりストライキが実施された。右ストライキの結果、新宮機関区では、当日乗務すべき紀伊田辺機関区所属乗務員一〇名が職務を放棄し、最短四時間二五分から最長六時間三三分欠務し、また奈良運転所所属地上勤務者である申請人今出が新宮機関区のストライキに参加し、八時間欠務した。新宮機関区所属で当日勤務すべき地上勤務者は全員所定の勤務時間に就労し、同乗務員約六〇名はスト突入に備え組合で確保した旅館に収容されていたが、スト参加指令が発出されなかつたため、所定の勤務時間に順次出勤し就労した。共闘本部は同日午後七時頃同機関区検修室前に組合員約一四〇名を集めて集約大会を開催し、闘争成果を確認したのち当局にストライキ中止を通告した。

(二) 本件争議行為の及ぼした影響

本件争議行為の実施時間中、国鉄側は指導機関士等を代替要員にあててできるかぎり列車の運行を確保しようとしたけれども、ストライキ実施の結果乗務員の欠務ならびに編成列車の不着等の直接間接の影響により、天王寺鉄道管理局管内の紀勢本線、和歌山線、阪和線において後記のとおり八二本の旅客列車、二九本の貨物列車、合計一一一本の列車が運転を休止し、二一本の旅客列車の運行が遅延する事態が発生した。

列車の運転休止、遅延状況の詳細は次のとおりである。

1 線区別の列車の運休、遅延状況

(1) 運転休止した列車

紀勢本線(旅客列車上り二〇本、下り二三本、合計四三本、内特急、急行列車一二本、貨物列車上り一一本、下り一四本、合計二五本)、紀勢本線・阪和線(旅客列車上り四本、下り九本、合計一三本、いずれも特急、急行列車)、紀勢本線、和歌山線(急行旅客列車一本)、和歌山線(旅客列車上り七本下り九本、合計一六本、貨物列車上り三本、下り一本合計四本)、阪和線(旅客列車上り三本、下り六本、合計九本、内急行列車二本)

(2) 遅延した列車

紀勢本線(旅客列車上り五本、遅延時間最短一三分、最長四八分、同下り五本、遅延時間最短一分三〇秒、最長一二五分)紀勢線・阪和線(旅客列車上り三本、遅延時間最短二分、最長六六分、同下り列車二本、遅延時間最短七分、最長九分三〇秒)、和歌山線(旅客列車上り六本、遅延時間最短二分、最長二一分)

2 各地区別の列車の運休、遅延状況

和歌山機関区(運休旅客列車五〇本、運休貨物列車二二本、遅延旅客列車九本)、紀伊田辺機関区(運休旅客列車二九本、運休貨物列車七本、遅延旅客列車六本)、新宮機関区(運休旅客列車三本、遅延旅客列車九本)

3 運転休止した旅客列車とその発車時刻、運休区間

(1) 特急列車

① 二D特急列車(一一・四七白浜・新宮)、②六〇一二D特急列車(一二・四〇白浜・新宮)、③六〇二〇D特急列車(一五・二二和歌山・白浜)、④一D特急列車(一三・四二新宮・白浜)、⑤六〇一四D特急列車(一〇・五五天王寺・白浜)、⑥一六D特急列車(一二・二五天王寺・新宮)、⑦一三D特急列車(一四・〇〇白浜・天王寺)、⑧六〇一七D特急列車(一四・五五新宮・天王寺)⑨六〇一九D特急列車(一八・〇二白浜・天王寺)

(2) 急行列車

①五一一D急行列車(一二・四一和歌山・白浜)②三〇六D急行列車(一五・五〇紀伊田辺・新宮)③二七一三D急行列車(一二・二四紀伊勝浦・新宮)④九〇二D急行列車(一三・一四白浜・新宮)⑤一二〇六D急行列車(八・二五新宮・串本)⑥三〇九D急行列車(一六・三〇新宮・和歌山)⑦二一一三D急行列車(時刻不詳和歌山・和歌山市)⑧一三〇七D急行列車(一一・四四新宮・紀伊勝浦)⑨一〇八D急行列車(一五・〇〇天王寺・椿)⑩一一二D急行列車(一六・〇〇天王寺・紀伊田辺)⑪一〇一D急行列車(七・三二紀伊田辺・天王寺)⑫一〇三D急行列車(九・一五椿・天王寺)⑬一〇七D急行列車(一二・二五白浜・天王寺)⑭三〇五D急行列車(一四・二三白浜・天王寺)⑮一一三D急行列車(一六・三二白浜・天王寺)⑯九〇一D急行列車(一五・一六新宮・天王寺)⑰五一二D急行列車(一五・〇三白浜・高田)⑱二五一二D急行列車(時刻不詳和歌山・天王寺)⑲二五一一D急行列車(前同天王寺・和歌山)

(3) 普通列車

① 三二二D普通列車(六・四五紀和・御坊)②一二八普通列車(七・〇四和歌山市・新宮)③一三二四D普通列車(八・五四和歌山市・紀伊田辺)④三二六D普通列車(一〇・〇九紀和・箕島)⑤三二二普通列車(一三・〇一和歌山市・紀伊田辺)⑥三二八D普通列車(一四・〇九和歌山市・湯浅)⑦一三六普通列車(一七・四五紀伊田辺・新宮)⑧三三〇D普通列車(一五・三六和歌山市・紀伊田辺)⑨一二二D普通列車(一八・四二紀伊田辺・椿)⑩三三二D普通列車(一六・一七和歌山市・湯浅)⑪一三八普通列車(一六・五一和歌山市・新宮)⑫三二四普通列車(一八・〇九和歌山市・紀伊田辺)⑬三二九D普通列車(一一・四四箕島・和歌山市)⑭一二五普通列車(七・五〇新宮・紀伊田辺)⑮一三二九D普通列車(一二・二九紀伊田辺・和歌山市)⑯一二九普通列車(一〇・〇一新宮・紀伊田辺)⑰三三一D普通列車(一五・三六湯浅・紀和)⑱三二五普通列車(一四・二九紀伊田辺・和歌山市)⑲三三三D普通列車(一七・三三湯浅・紀和)⑳三二七普通列車(一六・一七紀伊田辺・和歌山市)九一三九臨時普通列車(新宮・紀伊田辺)一三五普通列車(一七・四九紀伊田辺・和歌山市)一三二一普通列車(七・一四箕島・紀和)二二五普通列車(一七・五七紀和・和歌山市)一五二八D普通列車(八・一六和歌山市・高田)一五三〇D普通列車(九・一〇和歌山市・高田)五五三二D普通列車(一〇・一四和歌山・高田)五五三八D普通列車(一三・二二和歌山・高田)五五四二D普通列車(一五・〇七和歌山市・高田)五五四六D普通列車(一七・二六和歌山・名手)五三〇普通列車(一八・四九和歌山市・王寺)五四七D普通列車(一八・三七名手・紀和)一五四九D普通列車(一七・二〇高田・紀和)五五三七D普通列車(一二・二〇高田・和歌山)五五四一D普通列車(一四・二〇高田・和歌山)

(4) 回送列車

① 三二九D列車(和歌山市・紀和)②一二八列車(紀和・和歌山市)③一三二四D列車(紀和・和歌山市)④三二二列車(紀和・和歌山市)⑤三二八D列車(紀和・和歌山市)⑥三三二D列車(紀和・和歌山市)⑦一三八列車(紀和・和歌山市)⑧一五三〇D列車(紀和・和歌山市)⑨五五三七D列車(和歌山・紀和)⑩五五四六D列車(紀和・和歌山)⑪五五四一D列車(和歌山・紀和)⑫五三〇列車(紀和・和歌山市)⑬六〇一四D列車(紀和・天王寺)⑭16D列車(紀和・天王寺)⑮13D列車(天王寺・紀和)⑯二五一二D列車(天王寺・紀和)⑰一一三D列車(天王寺・紀和)⑱九〇一D列車(天王寺・紀和)⑲六〇一七D列車(天王寺・紀和)

(5) 貨物列車

① 一三八二貨物列車(和歌山操車場・串本)②一三八四貨物列車(和歌山操車場・箕島)③六三八六貨物列車(和歌山操車場・初島)④一三八八貨物列車(和歌山操車場・初島)⑤一三九二貨物列車(和歌山操車場・初島)⑥一三九四貨物列車(和歌山操車場・御坊)⑦一三九六貨物列車(和歌山操車場・初島)⑧一三七八貨物列車(紀伊田辺・新宮)⑨二九二貨物列車(和歌山市・和歌山操車場)⑩二九四貨物列車(和歌山市・和歌山操車場)⑪一三九〇貨物列車(紀和・初島)⑫一三七七貨物列車(紀伊田辺・和歌山操車場)⑬一三八三貨物列車(串本・和歌山操車場)⑭一三八五貨物列車(新宮・紀伊田辺)⑮一三九三貨物列車(新宮・紀伊田辺)⑯三七一貨物列車(初島・和歌山操車場)⑰三七三貨物列車(箕島・和歌山操車場)⑱一三七五貨物列車(初島・和歌山操車場)⑲一三七九貨物列車(初島・和歌山操車場)⑳一三八一貨物列車(初島・和歌山操車場)二九一貨物列車(和歌山操車場・和歌山市)二九三貨物列車(和歌山操車場・和歌山市)二九五貨物列車(和歌山操車場・和歌山市)二九九貨物列車(朝来・紀伊田辺)一二九一貨物列車(海南・和歌山操車場)五九二貨物列車(和歌山操車場・竜操)五九六貨物列車(和歌山操車場・竜操)九五九四貨物列車(和歌山操車場・五条)九五九五貨物列車(五条・和歌山操車場)

4 遅延した列車とその遅延時分

①一五二四D普通列車(二分三〇秒)②五五三四D普通列車(二一分)③五五四D普通列車(八分)④五四四D普通列車(六分)⑤五二六普通列車(二分)⑥九五二八D普通列車(二分)⑦一一三四普通列車(二二分三〇秒)⑧三三四普通列車(二八分)⑨一二〇六D急行列車(一分三〇秒)⑩三二三普通列車(五分)⑪一三四普通列車(四八分)⑫一〇二D急行列車(四分)⑬一三七普通列車(一二五分)⑭九一二五D普通列車(七五分、一二〇六D急行列車を新宮・串本間運休とし、右列車を普通列車に置換運転)⑮三〇五D急行列車(九分三〇秒)⑯11D特急列車(七分)⑰三六三D普通列車(一〇分)⑱二七一三D急行列車(三六分)⑲一二六普通列車(一三分)⑳2D特急列車(紀伊田辺駅一六分、新宮駅二分)九〇二D急行列車(和歌山駅二五分、紀伊田辺駅二分、新宮駅六六分)

5 ストライキ実施中所定乗務員および当局側代替要員により運転した旅客列車とその発車時刻、運転区間

Ⅰ 紀勢本線上り(和歌山市→新宮)

①三六二D普通列車(六・〇一紀伊勝浦・新宮)②一二四普通列車(六・一〇串本・多気)③三六四D普通列車(七・三六紀伊勝浦・新宮)④一一二四普通列車(一五・四五紀伊田辺・亀山)⑤三四二D普通列車(五・三〇南部・紀伊田辺)⑥九一四D急行列車(七・〇〇紀伊田辺・鳥羽・名古屋)⑦九一二D急行列車(一〇・四六紀伊勝浦・名古屋)⑧一二六普通列車(四・五五和歌山市・亀山)⑨三二四D普通列車(七・二六紀和・湯浅)⑩三〇四D急行列車(八・四六和歌山市・新宮)⑪2D特急列車(一〇・〇二和歌山・白浜)⑫一三〇八D急行列車(一三・五一紀伊勝浦・新宮)⑬一〇二D急行列車(一〇・二六和歌山・白浜)⑭一二D特急列車(一〇・五二和歌山・白浜)⑮九〇二D急行列車(一一・二四和歌山・紀伊田辺)⑯一一三四普通列車(一一・〇五和歌山市・紀伊田辺)⑰一三〇普通列車(一三・二一紀伊田辺・松坂)⑱一三四普通列車(一五・二三紀伊田辺・新宮)⑲三〇六D急行列車(一三・五一和歌山市・紀伊田辺)⑳二〇二急行列車(一八・一八紀伊勝浦・東京)、三六六D普通列車(一九・一四紀伊勝浦・熊野)三三四D普通列車(一七・二八和歌山市・御坊)三一〇D急行列車(一七・四一和歌山市・新宮)三二六普通列車(一八・三六和歌山市・紀伊田辺)

Ⅱ 紀勢本線下り(新宮→和歌山市)

①三二一D普通列車(四・五〇御坊・紀和)②三二三D普通列車(五・四〇御坊・紀和)③三二一普通列車(四・五四紀伊田辺・和歌山市)④三二三普通列車(五・五四紀伊田辺・和歌山市)⑤三四一D普通列車(五・三七周参見・紀伊田辺)⑥三二五D普通列車(七・〇〇紀伊田辺・和歌山市)⑦一二一普通列車(五・四〇串本・和歌山市)⑧三〇一D急行列車(六・一四新宮・和歌山市)⑨三二七D普通列車(一〇・三〇御坊・紀和)⑩一二三普通列車(六・三〇新宮・和歌山市)⑪二二一D普通列車(和歌山・和歌山市)⑫二〇一急行列車(八・〇七新宮・紀伊勝浦、東京始発列車)⑬一二〇六D急行列車(九・二三串本・和歌山)⑭三六三D普通列車(八・三六新宮・紀伊勝浦)⑮二D特急列車(九・三〇新宮・和歌山)⑯一〇九D急行列車(一三・二八紀伊田辺・和歌山)⑰九一二七D普通列車(一五・〇〇御坊・和歌山)⑱三〇五D急行列車(一二・〇〇新宮・白浜)⑲一三三普通列車(一二・一五新宮・紀伊田辺)⑳九一一D急行列車(一二・四三新宮・紀伊勝浦、名古屋始発列車)一D特急列車(一五・三五白浜・和歌山)一三五普通列車(一三・五二新宮・紀伊田辺、草津始発列車)

Ⅲ 阪和線(天王寺―和歌山)

阪和線には紀勢本線直通列車と鳳電車区を中心とする電車のダイヤが設定されている。本件争議行為の実施時間中、阪和線の列車、電車は、紀勢本線に直通する上下二二本の列車(内回送列車七本)を除き、ほぼ設定ダイヤどおり運転された。

Ⅳ 和歌山線(和歌山市―王寺)

和歌山線は、上下各約一時間に一本の割合で列車ダイヤが設定されている。本件争議行為の実施時間中、和歌山線上り列車(和歌山市―王寺方面)は一八本の列車のうち一一本の列車は若干遅延しながらもほぼ正常に運転され、また同線下り列車(王寺―和歌山市方面)は、始発点の王寺機関区がストライキ拠点とならなかつたため、四本の普通列車を除き、大部分設定ダイヤどおり運転された。

三本件争議行為における申請人らの各行為

(一) 申請人山出関係

次の事実は特にことわりのない限り当事者間に争いがなく、また同申請人において明らかに争わないので自白したものとみなされる。

1 申請人山出は、本件争議行為当時天王寺地本書記長として、前記一(二)記載の各会議のうち、三月一九日からの天王寺地本第四四回定期委員会、四月二一日の全国代表者会議、同月二七日の天王寺地本代表者会議、五月一〇日の天王寺地本闘争委員会、同月一二日、一五日の天王寺地本代表者会議に出席した。

被申請人は、同申請人が三月五日からの動労第六七回中央委員会に出席したと主張し、証人市野喜和の証言中にはこれに副う部分があるが、この点につき申請人山出は、同申請人本人尋問において、右委員会に出席する資格を有するものは中央委員に限られ、自己は単に同委員会を傍聴したのみであると供述し、右主張を否認しており、前記証言は右本人尋問の結果と前掲甲第八号証および証人長瀬繁一の証言に照らし直ちに措信し難く、他にこれを認めるに足りる疎明は存しない。

また、被申請人は、五月一六日天王寺地本闘争委員会が開催され、申請人山出が右委員会に出席した旨主張するけれども、この事実を認めるに足りる疎明は存しない。

2 申請人山出は、三月二〇日天王寺地本闘争委員会の発足とともに同地本闘争委員に就任し、また四月三〇日前記春闘地方共闘委員会の構成員となり、本件争議行為に際して天王寺地本闘争委員会から現地闘争指導のため現地最高責任者小屋原派遣中闘の補佐として和歌山機関区に派遣されていたが(これらの事実は前記一(二)3に認定のとおり)、前掲乙第八号証、証人市野喜和、同小屋原市郎の各証言および申請人山出本人尋問の結果によると、次の事実が認められる。

申請人山出は、和歌山機関区内に設置された国労動労合同闘争本部の戦術会議に加わり、小屋原派遣中闘らの統括のもとに具体的戦術の決定に参画し、五月一九日午後四時四五分頃小屋原派遣中闘が動労側の最高責任者として当局側の現地対策本部長と面談しストライキ準備中である旨通告した際、これに同席した。また申請人山出は五月一九日午後九時頃共闘本部前で開催されたストライキ決起集会の席上約五〇〇名の組合員に対して、閉会の挨拶として「春闘勝利のために、国労動労の共闘により大巾賃上げを勝ち取ろう」との演説を行ない組合員にストライキへの参加と団結を要請し、スト突入後の五月二〇日午前一一時三〇分頃当局側の現地対策本部付古市天王寺鉄道管理局総務部労働課補佐が同申請人に対しストライキの中止と職場離脱した職員の職場復帰を求めた際、これを拒否した。更に申請人山出は五月二〇日午後六時四〇分頃前記共闘本部前で開催されたストライキ集約大会に出席して、同大会を司会し、「国労動労の完全共闘により一〇〇本以上の列車が運休し大きな成果を上げた」との演説を行なうとともに、当日勤務すべき組合員に職場への復帰を指示した。

(二) 申請人今出関係

1 申請人今出は、本件争議行為当時天王寺地本執行委員として、前記一(二)記載の各会議のうち、三月一九日からの天王寺地本第四四回定期委員会、五月一〇日の天王寺地本闘争委員会、同月一二日、一五日の天王寺地本代表者会議に出席したことは当事者間に争いがない。

被申請人は、五月一六日天王寺地本闘争委員会が開催され、申請人今出が右委員会に出席した旨主張するけれども、この事実を認めるに足りる疎明は存しない。

2 申請人今出は、三月二〇日天王寺地本闘争委員会の発足とともに同地本闘争委員に就任し、また四月三〇日前記春闘地方共闘委員会の構成員となり、本件争議行為に際して天王寺地本闘争委員会から現地闘争指導のため新宮地区最高責任者渡辺派遣中闘の補佐として新宮機関区に派遣されていた(これらの事実は前記一(二)3に認定のとおりである)。

被申請人は、申請中今出が五月一八日正午から午後一時三〇分にわたり動労新宮支部前で開催された職場集会に出席して、組合員にスト参加を呼びかけ闘争意識をあおつた旨主張し、証人北澤三省の証言中にはこれに副う部分もある。しかし、右北澤証言は伝聞供述であるのみならず、的確な裏付証拠を欠き、ほかに右主張を支える証拠はなく、一方、申請人今出は、この点について同申請人本人尋問において「当日天王寺発午前九時一〇分の特急くろしお一号に乗車し、同日午後一時三八分新宮駅に到着したので、右職場集会には出席していない」旨供述しており、前掲乙第三二号証の一によると、右くろしお号の新宮駅到着時刻は申請人今出の右供述のとおりの時間であることが認められ、証人渡辺儀治も申請人今出の供述に合致する証言をしているので、結局申請人今出が右職場集会に出席したとの事実はその疎明不十分に帰する。

証人渡辺義治の証言および申請人今出本人尋問の結果によると、前記二(一)認定のとおり渡辺派遣中闘が動労側の最高責任者として五月一九日午後二時五〇分当局側の現地対策本部長に対しストライキ準備中である旨通告した際、申請人はこれに立ち会い、その席上同申請人は当局側の杉島弘天王寺鉄道管理局総務部労働課員とともにスト実施中労使双方の連絡窓口の衝にあたることが確認されたことが認められる(しかしその際渡辺中闘らが新宮機関区におけるストライキの責任者は渡辺と今出である旨言明したとの被申請人の主張については、証人杉島弘の証言中にこれに副う部分が存するが、右証言部分は証人渡辺儀治の証言および申請人今出本人尋問の結果に照らし直ちに心証を得難く、他にこれを認めるに足る疎明は存しない)。また、申請人今出は前記二(一)認定のとおり翌同月二〇日午前五時一四分渡辺派遣中闘とともに当局の現地対策本部長に対しストライキ突入を通告した。

申請人今出は五月一九日午後七時から開催されたストライキ決起集会に参加した(この事実は争いがない)。被申請人は、更に、申請人今出が右集会の開催を主催し、集結した組合員の闘争意識をあおつた旨主張するが、これを認めるに足る疎明はない。また、申請人今出は五月二〇日午後七時から開催されたストライキ集約大会に出席した(この事実も争いがない)。しかし、申請人今出が同大会を主催しストライキが成功裡に終了した旨宣言したとの被申請人の主張についてはこれを認めるに足る的確な疎明が存しない。

3 証人北澤三省、同渡辺儀治の各証言および申請人今出本人尋問の結果によると次の事実が認められる。

新宮機関区においては、前認定のとおり、五月二〇日午前五時一五分以降紀伊田辺機関区所属乗務員による指名ストライキが実施されていたところ、同日午前八時の日勤始業時刻に当日乗務予定のない予備乗務員が出勤し、当局側が右乗務員を代替要員に指定することが予想されたので、組合側は指名ストによる戦術効果が消滅するものと判断し、合同闘争本部の戦術委員会は三〇五D急行列車(新宮発一二時〇分天王寺行)以降指名ストライキを中止することを決定し、その旨新宮地区共闘本部に指示した。右指令に基づき、組合側は同日午前一〇時二三分頃三〇五D急行列車の所定乗務員二名を午前一〇時二五分の出勤時刻に就労させるため当直助役室に出区させた。一方、当局側は紀伊田辺機関区所属乗務員の指定ストライキ通告により右三〇五D列車乗務員二名も当然にストライキに参加して欠務するものと想定し、点呼簿に記載されていた右乗務員二名の氏名をその出勤時刻前に抹消して欠務扱いとし、予め確保した代替要員の氏名を記入して、代替乗務をすでに手配していた。この事実を知つた組合側は当局の処置が過去の取扱慣行に反し、所定乗務員の乗務を拒否する不当な取扱いであると激昂し、渡辺派遣中闘、申請人今出ら約二〇人の組合員が右処置について当直助役に抗議を行なつたため、当直助役室は約三〇分にわたり騒然たる空気に包まれ、その混乱の中で当局側は代替乗務員の点呼を一応終え、組合員に対し何度も退去命令を発する事態が発生した。その間北澤三省新宮機関区長は渡辺派遣中闘に対し当局側の取扱の落度を認め、所定乗務員による三〇五D列車の運転を申し入れたが、渡辺派遣中闘は紛議処理の条件として、右所定乗務員が出勤時刻に出区したことを当局が確認すること、ただし右乗務員は当局の処置によつて精神的動揺を受けているので運転保安上代替要員において三〇五D列車を運転し同列車の所定乗務員に便乗行路を組み紀伊田辺機関区に帰区させることを提案し、当局側の回答を求めた。しかし当局の回答がないまま三〇五D列車の発車時刻が迫り、当局の代替要員が乗務した三〇五D列車は右のような混乱の影響を受けて新宮駅を九分三〇秒遅れて発車した。しかし、右抗議に際して、組合員が暴力あるいは威力を用い、当局側職員の業務の執行を実力でもつて積極的に妨害するというような行為をした事実は認められない。

四公労法一七条一項の解釈

(一) 憲法二八条は、いわゆる労働基本権、すなわち勤労者の団結する権利および団体交渉その他の団体行動をする権利を基本的人権として保障している。その趣旨とするところは、最高裁昭和四一年一〇月二六日全逓中郵事件判決の指摘するように、憲法二五条に定める生存権四保障を基本理念とし、勤労者に対して人間たるに値する生存を保障するために、憲法二七条の定める勤労の権利および勤労の条件の保障と相俟つて経済的劣位に立つ勤労者に対し実質的な自由と平等とを確保するための手段として、その団結権、団体交渉権、争議権等を保障しようとするにある。すなわち、労働基本権は、勤労者の経済的地位の向上のための手段として認められるものではあるが、勤労者が健康で文化的な生活を享受するべき生存権的基本権に直結し、それを保障するための重要な手段であるということができる。そして、公共企業体等の職員も自己の労務を提供して生活の資を獲得する点において私企業労働者と何ら異なるところはなく、憲法二八条にいう勤労者に該当することは全く疑いがない。そしてまた、憲法一一条は、国民はすべての基本的人権の享有を妨げられず、憲法が国民に保障する基本的人権は侵すことのできない永久の権利であると明確に宣言しているから、勤労者の労働基本権を全面的に否定しあるいは剥奪することの許されないことは明らかである。

(二) しかしながら、労働基本権も国民一般の営む社会共同生活の場において行使されるものである以上、国民の他の基本的人権との間に矛盾・衝突を来たすことは避けがたい。この場合労働基本権が他の一切の人権に無条件に優越すべきものとする法理は発見しがたいところであるから、労働基本権もそれ自体無制限なものではなく、国民生活全体の利益との調和という観点からする内在的制約を持つものと解される。しかも公共企業体等の職員は、総じて一般私企業の労働者とは異なつた公共性を有する職務に従事するものであるから、その労働基本権の行使が一定の合理的な制約に服すべきことはなおさらのことであるといわなければならない。

ただ労働基本権の制約の程度ないし限界に関しては憲法の根本趣旨に照らし、慎重に決定する必要があることはいうまでもない。そこで当裁判所としては、その判断に際しては、諸般の事情を考慮すべきであるが、とりわけ重要な基準として、最高裁全逓中郵事件判決の掲げる四条件、すなわち①労働基本権の制限は、労働基本権を尊重確保する必要と国民生活全体の利益を維持増進する必要とを比較衡量して、両者が適正な均衡を保つことを目途として決定すべきであるが、労働基本権が生存権に直結し、それを保障するための重要な手段である点を考慮し、その制限は合理性の認められる必要最少限度のものにとどめられるべきこと、②労働基本権の制限は、勤労者の提供する職務または業務の性質が公共性の強いもので、その停廃が国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらすおそれのあるものについて、これを避けるために必要やむを得ない場合に考慮されるべきこと、③労働基本権の制限違反に伴う法律効果、すなわち、制限違反者に対して課せられる不利益については必要な限度を超えないように十分配慮されるべきであること、④職務または業務の性質上、労働基本権を制限することがやむを得ない場合には、これに見合う代償措置が講ぜられなければならないこと、以上の四条件を判断の基準とすべきものと考える。

また、右制約基準を公共企業体等職員に適用するにあたつては特に次の点に考慮を払うべきである。すなわち、公共企業体等が行なう業務は、本質的には私経済的作用で、その性質上当然に国または地方公共団体その他の公共的機関に委ねられなければならない必然性を有しているものではなく、従つてまた、公共企業体職員の担当する職務は、一般的にみて国家公務員法および地方公務員法の適用を受ける非現業公務員に匹敵するほどの公共性を有するものではないということ、更に公共企業体等の職員と称しても、その属する各企業体によりまた職種により、その業務および職務の性質、内容は多様であつて、その労働基本権の行使、とりわけ争議権の行使が国民生活に及ぼす影響も一様ではないということ、これである。

(三) 公労法一七条一項は「職員及び組合は、公共企業体等に対して同盟罷業、怠業、その他業務の正常な運営を阻害する一切の行為をすることができない。又職員並びに組合の組合員及び役員は、このような禁止された行為を共謀し、そそのかし、若しくはあおつてはならない」と規定している。この規定の合憲性につき当事者間に争いがあるが、公労法一七条一項が憲法二八条との関係で直ちに違憲、無効の規定と解すべきでないことについては、すでに先に、刑事事件に関してではあるが、最高裁昭和四一年一〇月二六日全逓中郵事件判決において判断が示されているところであつて、当裁判所も右判決と基本的立場を同じくし、公労法一七条一項の規定は憲法二八条に違反するものではないと判断する。そして公労法一七条一項の解釈については、いわゆる合憲的制限解釈をもつて最も妥当であると思料するものである。

これを少し詳論すると、たしかに、右条項は、争議行為の主体、態様または程度のいかんを問題とせず、あらゆる争議行為を一律無条件に禁止しているように読めなくもないが、もしそうだとすると、右条項は憲法二八条の趣旨と公共企業体等職員の法的地位に照らし、違憲の疑いを免れない。しかし、法律の規定はその文言のみに拘泥することなく憲法の精神に適合するよう合理的に解釈しその意味内容を明らかにすべきもので、財産権の保障と並んで労働基本権を保障している憲法のもとでは、両者の調和と均衡が保たれるような解釈こそ正当であり、前記全逓中郵事件判決の指摘する制約基準を踏まえ合理的解釈をするならば、同条項は、公共企業体等職員の行なう争議行為を一律かつ全面的に禁止したものではなく、公共企業体等の員のうち公共性の強い職務に従事する職員の行なう争議行為であつて、国民生活全体の利益を害し国民生活に重大な障害をもたらすおそれがあるものにかぎり禁止したものと解すべきものである。

(四) もつとも、右のような合憲的限定解釈に対しては多くの批判があり、とりわけ右解釈にいうところの「国民生活に対する重大な障害」という概念は争議行為の制限基準として明確性をそなえていないとの反論は傾聴に値する面がないでもない。しかしながら、包括的文言による権利の制限は実定法上必らずしも例のないことではないし、注の意義が多義的なときは上位規範にしたがう解釈を施すことは法解釈の一般原則であつて、法文上他の解釈が不可能なほどに文言の意味または立法趣旨が明確な場合には、法規の有する客観的意味を変えることは許されないが、法文の意味が立法の沿革および立法趣旨上二義を許さぬほど固定的でない場合には、憲法の趣旨に適合する合理的な解釈を採ることは決して許されないところではない。しかるところ、<証拠>によると、終戦後旧労働組合法、旧労働関係調整法上当時公務員であつた国鉄職員を含む官公労働者は労働三権を保障されていたのであるが、昭和二二年二月一日のゼネスト中止命令を発端とし、昭和二三年七月二二日当時敗戦下の窮迫、疲弊した我国において、官公労働者の争議行為の国民生活への影響を考慮してストライキの規制を示唆したいわゆるマツカーサー書簡が発せられ、右書簡の要請に応じて、同年七月三一日公布施行されたいわゆる政令第二〇一号により国鉄職員を含む一切の公務員の争議行為が禁止されることになり、その後右マツカーサー書簡および政令第二〇一号の趣旨にしたがい、昭和二四年六月公共企業体労働関係法(但し昭和二七年現在の名称に改正された)が施行され、国鉄職員の争議行為禁止は公労法一七条に引きつがれ、その際、政府は、同法制定の提案理由の趣旨説明の中で、公共企業体等の職員の争議行為は公共の福祉のためやむをえず禁止するが、反面職員の地位向上のため団体交渉権を確保し、調停仲裁制度を完備する旨の説明を行なつたことが認められる。右立法の沿革に徴すれば、公共企業体等職員の争議行為を国民生活に及ぼす影響の程度のいかんにかかわらず、全面一律に禁止しなければならないほどの立法上の必要が存したかについては少なからず疑問の存するところである。右の点に加え、公労法一七条一項は、国家公務員法、地方公務員法におけると異なり、その違反行為に対する刑事制裁に関する規定を伴なつていないから、刑罰法規におけるような概念の明確性の要請はさしあたり存しないこと、前記のとおり労働基本権なるものが当然に内在的制約を内包している以上、その制約の限度を論ずる場合には、前記限定解釈以外の立論に立つとしても、多かれ少なかれ、「国民生活に対する重大な障害」の概念の意味内容を具体的に明らかにせざるをえないこと、争議行為の国民生活に及ぼす影響はたしかに多種多様ではあるが、いかなる職種の公共企業体等職員の、いかなる態様規模の争議行為が国民生活に重大な障害をもたらすおそれがあるか、その基準をある程度客観化し、判例の集積によつて禁止される争議行為の範囲を具体化、明確化することも不可能ではないこと等の諸点に鑑みるときは、基準の不明確性をいう前記批判は必ずしも合憲的限定解釈の批判として妥当しないものというべきである。

右のとおり、公労法一七条一項にいう「争議行為」については限定的解釈を施すべきものであり、この立場による限り同条項は憲法二八条に反するものとはいえないから、申請人らの主張は採用できない。

(五) 以上の解釈はまた、最高裁判所昭和四八年四月二五日大法廷判決(いわゆる全農林警職法事件判決)の趣旨と必ずしも相容れないものではない。けだし、同判決は、国家公務員法違反被告事件についてのもので、公務員に対する争議行為の禁止は違憲でないとするとともに、争議行為についての限定解釈を否定する趣旨の判示をしているのであるが、公共企業体等の職員は一般私企業によつても遂行されうる業務に従事する者で公権力の行使に当る公務員とその地位を同一にしないばかりでなく、公共企業体等職員の争議行為のあおり行為等は刑事処罰の対象とされていないのであつて、国家公務員法(昭和四〇年法律第六九号による改正前)九八条五項等の解釈が直ちに公労法一七条一項に妥当するとはいえない。被申請人はいわゆる合憲的限定解釈は右最高裁判決により一般的に否定されたもののように主張するが、右見解は当裁判所の採用しないところである。

五公労法一七条一項の国鉄職員の争議行為への適用

そこで、公労法一七条一項を右のように解すべきことを前提として、右条項の国鉄職員の争議行為への適用の問題について更に検討する。

(一) まず、国鉄の業務の実態について考えてみるに、国鉄は前記のとおり、国が国有鉄道事業特別会計をもつて経営している鉄道事業その他一切の事業を経営し、能率的運営により、これを発展せしめ、もつて公共の福祉を増進することを目的として設立された公法上の法人である(国鉄法一条、二条)。そして右目的を達成するため、具体的には、鉄道事業、鉄道事業に関連する連絡船事業および自動車運送事業ならびにこれらの附帯事業の経営業務等を行なう(同法三条)。国鉄の資本金は全額政府の出資にかかり(同法五条)、その予算は国の予算の議決の例によるものとされ(同法三九条の九)、その会計は会計検査院が検査する(同法五〇条)。国鉄の代表者たる総裁は内閣が任命し(同法一三条一項、一九条一項)、国鉄の監督は運輸大臣が行ない(同法五二条)、運輸大臣の任命する委員からなる監査委員会がその業務を監査する(同法一四条、一九条三項)。また、国鉄の鉄道等の運賃については、公正妥当なものであること、原価を償うものであること、産業の発達に資すること、賃金及び物価の安定に寄与することが要求され(国有鉄道運賃法一条二項)、鉄道の普通旅客運賃、航路の普通旅客運賃、車扱貨物運賃の運賃あるいは賃率については立法事項とされている(同法三条、四条、七条二項)。これらの関係法令によつてみると、国鉄の業務は、事業目的組織および運営形態に鑑みて高度に公共性の強い業務として法律上位置づけられていることが明白である。

次に、本件争議行為が行なわれた昭和四六年五月当時の国鉄の輸送数量は詳細には疎明されていないけれども、当時の国鉄が大規模な輸送網による大量輸送業務を担当し、国内旅客運送量、同貨物輸送量、輸送人員において国内総輸送力の主要な部分を占めていたことは社会的に顕著な事実である。しかも、国鉄業務の特徴として留意すべきは、輸送量だけではなく、輸送の範囲、種類であつて、国鉄の基幹事業たる鉄道事業は、その業務範囲が全国にわたるとともに、国内主要幹線を独占する点において、特に長距離輸送(とりわけ旅客輸送)に私鉄とは隔絶した能力を発揮し、全国民に最良に便宣な輸送手段を提供し、国民の生活に深く密着している。最近国鉄以外の他の輸送機闘の発展がめざましく、国内輸送量の面からみた占有度が大巾に増加しつつあるけれども、例えば、私鉄についてみれば、大都市およびその周辺に集中して偏在し、主として当該地方における通勤輸送、貨物輸送を中心業務とし、多くはその地方の住民に便益を供するにとどまり、国鉄の全国規模にわたる長距離輸送等に代替する役割を果すまでには至つていない。これらの点もまた公知の事実である。そうとすれば、国鉄の輸送業務は、国民経済の大動脈にも比肩すべき重要な機能を営んでいるといつても過言ではないであろう。

してみれば、国鉄の輸送業務は、その停廃の規模、態様のいんかによつては、国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらすおそれのある業務であることが明らかである。

次に、国鉄事業の運営においては多数の職員が多種多様な職務を担当しており、その公共性の程度は輸送業務との関連の程度に比例して一様ではないが、少くとも動力車に関係のある職務に従事する職員は国鉄の輸送業務を直接担当する者であるから、これらの職員を含む国鉄職員が争議行為を行ない、職務を放棄するときは、直ちに国鉄の輸送業務に支障を及ぼすことになることは当然である。

そうとすれば、動力車に関係ある職務に従事する者らを含む国鉄職員によつてなされる争議行為は公労法一七条一項による禁止の対象となりうる争議行為であることは明らかである。

(二) ところで、国鉄職員に対しいかなる範囲において争議行為が制限されるべきかの判断に際しては、いうまでもないことながら、さきにも触れた憲法上の労働基本権保障の意義と全逓中郵事件判決の四条件の根幹をなす、労働基本権の制限は必要やむをえない場合に限られるとの制約基準、すなわち「必要最少限制約」の原則を念頭に置くべきであり、この見地よりして当裁判所は、少くとも次の諸点の配慮を欠かすことができないと考える。第一に、争議行為の制約の範囲を確定するには労働基本権の保障により国鉄職員の受ける利益と労働基本権の制約により一般国民の受ける利益との比較衡量が必要であるが、その場合一般国民の受ける利益の実質なるものが果していかなるものであるかが吟味されるべきであり、「必要最少限制約」の原則から演繹するならば、国鉄職員の争議行為から保護されるべき国民生活全体の利益とは、国鉄職員の労働基本権に優越するか、これと正当に対置しうるものでなければならない。そうだとすると、それは国民一般の生存権的利益のほかには考えることができず、国民の安全、健康、福祉等の具体的利益たるべきである。この見地よりすると、国民の日常生活の一時的な便益の喪失、すなわち単に社会生活上不便を強いられるとか、事実上迷惑をこうむるといつた程度の不利益は、争議権制約の根拠としては十分でないといわなければならない。第二には、さきにも言及した国鉄業務の高度な公共性に鑑みるときは、輸送業務の僅かの停廃でも一般国民にそれ相応な不利益をもたらさないではおかないわけであるが、そのような不利益をたやすく国民生活に対する重大な障害であると認めてよいかとどうかという問題である。けだし、争議行為なるものは、労働関係の当事者がその主張を貫徹することを目的として行なう行為であつて業務の正常な運営を阻害するものをいう(労働関係調整法七条参照)のであるから、業務阻害は争議行為の本質であるといわなければならず、またそのような結果をもたらす行為であつてはじめて使用者に対する効果的な対抗手段となりうるものであるところ、輸送事業のことき公共性ある事業に争議行為を許容する以上は、第三者たる国民がそれ相応の不利益を蒙るべきことは、まことにやむを得ないところであるといわなければならない。従つて、世上一般のストライキによつて通常蒙る程度の不利益、あるいは、争議行為が行なわれても特別な困難なく回避又は回復できる程度の損害は、一般国民としては受忍するほかはないものと考えられる。もし右のような不利益ないし損害をも「国民生活に対する重大な障害」と認めるとすれば、争議権の行使そのものを否認するのと殆んど異ならないことになるというべきである。

(三) 国鉄の業務、とりわけその輸送業務の膨大かつ多様な特質に鑑みるときは、国民生活に重大な障害をもたらす場合を外形的に類型化することは容易な作業ではない。ただ右基準のような事態が発生したかどうかを判断するにあたつて、争議行為の期間の長短、規模、阻害される列車の種類等が重要な要素となるべきことは疑いがなく、争議行為の時間が著しく長時間に及ぶとき、争議行為がさほどの長時間にわたらなくても全国的規模において行なわれたとき、あるいは争議行為が長距離列車の運行を阻害する態様で行なわれたとき、多数の列車が運休、遅延し、また大量の貨物が予定の時刻に目的地に到着しなかつたときなどが、国民生活に重大な障害を与えたことの一の徴表となり得ることは明らかである。しかしながら、国民生活に重大な障害を与えたかどうかは、さきにもふれた諸般の諸点に留意しつつ実質的に判断すべきなのであり、右に挙示した場合に形式的に該当することをもつて直ちに国民生活に対する重大な障害が生じたものと認めるのは相当でない。すなわち、右に挙示した各場合に一応該当しつつも相当程度に被害の発生を避け得られる場合あるいはその受けた被害を回復できる場合なしとしないのである。これを少し詳論すれば、争議行為が長時間又は広範囲にわたるとき、列車運行の連鎖性等から、列車の乗客は定時に目的地に到着する予定行動の時間を不可逆的に喪失するが、国民の日常生活は時間に従つて営まれているとはいえ、一般的には相当程度の柔軟性を有しており、予定の行動を他の時間に振り替え、あるいは労働密度を高めて列車阻害による支障を回避ないし回復することが可能であるから、長期間又は広範囲にわたる争議行為が必らず多数の乗客に単なる迷惑の域を超えて生活上とりかえしのつかない損害を与えるとはいえない。また貨物列車の運休等により大量の貨物が定時流通を阻害されるとき、特に企業において原材料の入手、製品の搬出計画等に支障を及ぼすことがあるにしても、反面国鉄の貨物輸送は事前に利用者に定日定時を指定して行なわれているのではないから、大量の貨物が予定の時刻に目的地に到着しないことが直ちに国民の経済生活に深刻な打撃を与えるとは断定できない。もつとも先にも述べたとおり、国鉄業務と私鉄業務との最大の差は全国的規模の長距離輸送の点にあり、国鉄の主要幹線を進行する長距離列車の運行の停廃は、多数の国民の日常生活を危くし、国民経済全体を著しく阻害する結果を招来する可能性が強いが、しかし、一方最近は国鉄以外の他の輸送機関による国内輸送業務の普及が著しく、量距離輸送としての航空輸送、道路輸送および沿岸輸送が増大してきていることも公知の事実であつて、或る程度までは他の輸送機関による代替が可能であることは留意されるべきである。更に、争議行為の時期、範囲、期間等が十分な日時を置いて予告されている場合は、当局および国民がそれに対する対応策を講ずることがかなりの程度に可能となるのであり、その場合には国民生活に対する障害はそれ相応軽減されることとなろう。

(四) そうすると、国民生活に重大な障害をもたらすおそれのある争議行為か否かの判断にあたつては、結局、さきに挙示した判断指針を踏まえ、具体的争議行為ごとに、その期間、規模、態様等を巨細に検討し、国民生活に対する影響の程度を具体的に判定すべきものであるといわなければならない。

六申請人らの行為の公労法一七条一項該当性

そこで、右の前提に基づき、本件争議行為(天王寺地本傘下の争議行為)が公労法一七条一項によつて禁止される争議行為に該当するか否かについて判断することとする。もつとも、本件争議行為は前述のとおり動労が企画した昭和四六年度春闘争議の一環として実施されたもので、ある争議行為が適法なりや否やはほんらい当該の争議全体に着目して判断すべきものであると言い得ようが、本件争議行為は天王寺鉄道管理局管内の鉄道路線においてのみ実施されたもので(前述のように静岡地本以西の闘争地本は天王寺地本のみである)、国民生活に対する障害の面からみると一の地方において独立して行なわれた争議に類し、被申請人は申請人らの責任を本件争議行為の範囲内と主張しているのであるから、対象を本件争議行為の範囲に限局し違法性の有無を判断して妨げがないと解される。

(一) 前認定事実ならびに<証拠>によると以下の事実が認められる。

1 本件争議行為が実施された各線区の規模

本件争議行為により列車の正常な運行を阻害された各鉄道路線のうち、紀勢本線は、和歌山市・亀山間の全長384.2キロメートルを結ぶ紀伊半島一帯の重要幹線であり、同線区には白浜、串本、紀伊勝浦等の全国有数の観光地が所在しているため、天王寺鉄道管理局においても重要線区として線路計画を設定しており、同局管内の特急、急行列車(普通列車に対比して優等列車と呼称されている)、長距離列車の大半が集中している。同本線には、これと、競合する私鉄路線は存せず、同線の輸送業務が停廃した場合、一定の限度で輸送力を代替できる公共輸送機関は、和歌山・紀伊田辺間あるいは和歌山・新宮間等を直通ないし乗替運転されるバス路線のみであり、それ以外は紀勢本線に並行する舗装国道上の自動車輸送等に依存するほかない。次に、阪和線は、和歌山・天王寺間を結ぶ全長61.3キロメートルの紀勢本線・阪和線直通列車および電車等の輸送区間で、紀勢本線の優等列車は大部分阪和線の和歌山駅を着発し、大阪の都市圏と紀勢本線は阪和線を通じて連結している。しかし阪和線の輸送機関の主力は大量の電車輸送で、早朝午前五時頃から深夜午前零時頃まで間断なくダイヤが設定され、阪和線の電車を利用する乗客は当時天王寺鉄道管理局内で最大の一日平均七〜八万人に及び、主として通勤、通学等の利用に広範囲な便益を提供している。なお阪和線にはほぼこれと並行して、私鉄南海電鉄の電車路線がある。和歌山線は、和歌山市・王寺間の全長89.3キロメートルの列車路線であり、奈良県西部や紀北地方と和歌山を結ぶローカル線であるが、右路線に競合する私鉄路線がないので、地方輸送機関として輸送量の占有度が高い。本件争議行為当時に設定されていた各線の列車ダイヤ(定期および臨時列車を含む)の内訳は、紀勢本線・阪和線では旅客列車一〇一本(特急列車一二本、急行列車三七本、普通列車五二本)、貨物列車(単機を含む)九七本、和歌山線では旅客列車四五本(急行列車三本、普通列車四二本)、貨物列車六本でり、本件争議行為当日の列車ダイヤもこれにほぼ同量である。右列車ダイヤによる本件争議行為当時の輸送量見込は、紀勢為線・阪和線において一日平均旅客約一万五、〇〇〇人(優等列車旅客約七、〇〇〇人、普通列車旅客約八、〇〇〇人)、貨物約二万二、〇〇〇トン、和歌山線において一日平均旅客約六、〇〇〇人貨物約三〇〇トンであつた。

2 本件争議行為の及ぼした影響の程度

本件争議行為の結果、列車乗務員二三七名、地上勤務者三六五名、合計六〇二名の国鉄職員が欠務し、運休した旅客列車は八二本、同貨物列車は二九本、遅延した旅客列車は二一本を数えた。本件争議当時設定されていた列車ダイヤ総量に対する右運休列車(回送列車を除く)の割合は優等列車53.8%、普通列車37.2%、貨物列車五〇%に及ぶ。

本件争議行為は当時においては天王寺鉄道管理局開局以来の長時間かつ最大規模のストライキと称せられた。先づその争議行為継続時間において、五月二〇日午前三時のストライキ突入(但し列車運休開始時刻は、紀勢本線・阪和線午前六時四五分、和歌山線午前八時一六分)から同日午後七時頃のストライキ中止に至るまで約一六時間間断なく行なわれ、ストライキ中止後も列車が正常ダイヤに復するにはなお相当の時間の経過を必要とした。また本件争議行為の態様、範囲についてみれば、本件争議行為は紀勢本線を中心として広範囲にわたつており、従来とられてきた特定拠点のみのスリライキにとどまらず、戦術的にみて効果の大きい線区別闘争の方針にもとづき、各拠点間の全線区において統一的に行なわれ、長時間の争議行為継続とあいまつて、前記のとおりの多数の列車の運休、遅延を生ぜしめ、そのため紀勢本線・阪和線、和歌山線の一日平均利用乗客約二万一、〇〇〇人のうち約一万四、〇〇〇人が本件争議行為による何らかの形態の影響を受け、当日の貨物輸送量も相当大巾に減量するに至つた。とりわけ、ストライキの中心線区となつた紀勢本線では、相当数の中長距離列車、特急、急行列車の運行が阻害されたが、同路線の線区が広範囲に及んでいることならびに同本線には競合ないし並行する私鉄路線が存しないうえ、国鉄以外の公共輸送機関である長距離バス路線は運転回数が少なく、その輸送力だけでは国鉄輸送の利用者を収容することができないために、右列車の運行阻害は長時間のストライキ継続とあいまつて他の輸送機関ないし手段による代替を著しく困難にしたものと容易に推認できる。

そうすると、本件争議行為は長時間広範囲にわたり実施された結果、多数の列車の正常な運行を阻害し、また多数の乗客その他の利用者に迷惑を及ぼす事態を生ぜしめたものと一応評価することができる。

(二) しかしながら、本件争議行為の影響度合を更に細密に検討してみると、前掲各疎明によれば以下の事実が認められる。すなわち、本件争議行為が実施された各路線のうち、阪和線はストライキ実施時間中もその輸送手段の主流を占める電車が正常ダイヤにしたがつて運転されていたので、紀勢本線・阪和線直通列車の運行阻害が同線区の輸送業務に及ぼした影響は軽微であり、阪和線区間のみの運休列車は大部分回送列車である。また和歌山線においても、運休した旅客列車一六本のうち五本が回送列車であり、ストライキ実施時間中、所定乗務員および当局側代替要員により、同線上り和歌山市→王寺方面のほぼ全線区を走行する列車一九本のうち一二本、同線下り王寺→和歌山市方面の同列車一六本のうち一三本の運行がそれぞれ確保され、運休列車は大部分和歌山市〜高田間約八〇キロメートル未満の短距離区間のものであるから、右列車運行の停廃は他の輸送機関ないし手段による代替輸送を著しく困難にしたものとは考えられず、遅延した列車六本の遅延時間も最高二一分にすぎない。本件争議行為実施線区のうち紀勢本線における列車の運行阻害が多数の乗客その他の利用者に迷惑を及ぼしたことは前認定のとおりであるが、同線の長距離優等列車を利用する旅客の主流は南紀方面への観光客および商用客であるから、その利用の性質上、当該列車の利用を他の時間に振り替えることが不可能なものではない(本件争議行為当日の五月二〇日南紀白浜温泉では約一、五〇〇人の宿泊解約があつた)。また同様の普通列車のうち全線区ないし長距離区間を走行する列車は上下各二本のみであり、普通列車の大半は約一〇〇キロメートル前後の比較的短距離区間のものである点において、他の輸送機関ないし手段による代替輸送も可能であつたと思われる。本件争議行為の実施時間中、前記のとおり列車が運休、遅延したとはいえ、紀勢本線上り(和歌山市――新宮方面)列車は午後二時頃から午後六時頃までの時間帯を除き(所定乗務員および代替要員により優等列車を含む相当数の列車が予定全線区ないし一部区間で運転され、同下り(新宮――和歌山市方面)列車は和歌山駅およびその周辺において朝の通勤通学時最も利用客の多い和歌山着の列車を中心同、午前四時五〇分御坊発の始発列車から午前九時三〇分新宮発の特急列車まで六〇%以上の列車ダイヤがほぼ正常に確保され、それ以降もストライキ中止に至るまで午後二時頃から午後六時頃までの時間帯を除き、優等列車を含む六本の列車が運転されたものであつて、紀勢本線の利用客が全一日完全に同路線の利用を奪われたわけではない。本件争議行為による紀勢本線(紀勢本線・阪和線直通を含む)の遅延列車一五本の平均遅延時間は約三〇分であり、午後七時頃ストライキが中止されて運転が再開され、午後九時三〇分頃には列車ダイヤの乱れもおさまり、正常ダイヤに回復した。また本件争議行為の評価に際しとりわけ注目に値する点は、本件争議行為が行なわれることは、五月一二日頃以降予め新聞、テレビ等で広く報道されていたので、事前に国鉄当局はもとより国民一般も争議行為の内容を相当認識するに至つており、国鉄当局は代替要員の確保等の対策を予め講じる機会を得るとともに、国鉄の利用者には国鉄輸送以外の手段、方法を用意、選択する機会が与えられていた点であつて、ストライキの影響を受ける和歌山県下の各会社、商店、官庁では本件争議行為前日の五月一九日からスト実施に備えて個々に輸送対策を立て、学校は生徒の通学圏を考慮して始業時間を繰り下げるなどの措置を採り、その結果本件争議行為当日紀勢本線では約三、〇〇〇枚の切符払戻しが行なわれたが、乗客がストライキのために立腹して列車の運行を要求して混乱するというような事態は全く生じなかつた。紀勢本線の線区は主に太平洋に面し、自然の災害を受け易い位置に存し、昭和四七年九月には台風の被害を受けて本件争議行為継続時間をはるかに上廻る期間列車の運行が阻害され、その際列車不通区間は約半月にわたりバスによる代替輸送により輸送力を確保したが、そのために多数の地域住民が日常生活上容易に回避ないし回復することのできない程の多大の損害を受けたようなことはなかつた。

以上のとおり認められ、右認定を覆すに足りる疎明はない。

(三) また、前認定のとおり本件争議行為は組合員の労務提供拒否の態様で実施されたもので、証人長瀬繁一の証言によれば、本件争議行為に際して、組合員が暴力または威力を用い、ピケを張つて乗務員の乗務を阻止し、機関車に乗り込んで降車を説得し、あるいは当局側職員の運転業務を実力で妨害するなど積極的に列車の正常な運行を阻害する行為はなかつたことが認められ、右認定に反する的確な疎明はない。もつとも、新宮機関区におけるストライキ中、三〇五D列車の代替業務に関して、動労組合員らが当局側職員に抗議行為をなしたことは前認定のとおりであるが、右行為は前記認定事実の経過に徴し国鉄業務の正常な運営を違法に阻害したものとまではにわかに認め難い。

以上考察したところによれば、本件争議行為の結果多数の列車の正常な運行が阻害され、また多数の乗客その他の利用者に迷惑を及ぼす事態が発生したことは否定できないが、その障害の程度は、いまだ、前記判断指針として考慮した諸点に照し重大なものとは称しがたく、結局本件争議行為は国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらす争議行為であつたといえず、公労法一七条一項に禁止された争議行為に該当しないものといわなければならない。

(四) そうだとすると、本件解雇処分は、解雇の理由とされた事実が認められないことに帰し、少なくともみだりになされた解雇として、解雇権濫用の法理によりその効力を認めることができない。

七処分の苛酷を理由とする解雇権濫用の成否

当裁判所は、前記のように申請人らのなした争議行為は公労法一七条一項に禁止する争議行為に該当しないと判断するものであるが、仮に本件争議行為が公労法一七条一項で禁止する争議行為に該当すると解されるとしても申請人らに対する本件解雇処分は、処分の苛酷性が問題になると考えられるので、以下においてはこの点を検討する。

(一) 公労法一七条一項後段の意義

公労法一七条一項後段の「共謀」とは、複数の者が同項前段で規定する争議行為を実行する目的をもつて共同の意思を形成するために謀議することであり、「そそのかし「とは同項前段に規定する争議行為を実行させる目的をもつて、他人に対し、その行為を実行する決意を新たに生じさせるに足りる慫慂行為をすることであり、また「あおり」とは右と同様の目的をもつて、他人に対し、その行為を実行する決意を生じさせるような、あるいは既に生じている決意を助長させるような勢いのある刺激を与えることを意味するものと解すべきである。

ところで前記「本件春闘争議の経過」の項で述べたところから明らかなように、本件争議行為は、動労の中央委員会、全国代表者会議あるいは地方下部機関である天王寺地本および傘下支部の委員会、代表者会議等の決議ないし確認を経て、中央闘争委員会によつてその大綱が決定されたもので、右大綱にしたがつて中央闘争委員会が関西ブロック代表者会議等の会議を経て徐々に計画を具体化し、最終的には中央闘争委員会の戦術会議の決定にもとづき指令内容が決定され、天王寺地本が、派遣中闘の指導のもとに、代表者会議等を開催し、右中央闘争委員会の指令を確認して意思統一を図り、派遣中闘が右指令の範囲内において決定した闘争戦術の内容を了承し、更に関係機関との協議調整等を経て本件争議行為が遂行されるに至つたものである。右事実によれば、地本以下の下部機関においても、中央本部機関の決定に影響を与えるとともに中央本部機関のした決定の範囲内で具体的措置を決定し、組合員の意思統一をはかつたものというべきである。もとより争議行為は一の事実行為であつて、公共企業体等の労働組合のような規模の大きい労働組合においては争議行為は中央機関の発議、計画、指導により整然と実行される場合が多いけれども、それだからといつて地方の機関が争議実行の共同意思の形成に原因を与えないことになるものではなく、地方機関の関与があつてはじめて組合員の共同意思は十全に形成され、争議は円滑に遂行されるものであることは明らかである。そうだとすれば、前記一連の過程はすなわち本件争議行為を実行するための謀議の過程であるといわなければならず、一体のものとして評価されるべく、謀議の一部に参画した者もまた争議行為を共謀した者に該当するというべきである。この場合、中央本部機関以外の各下部機関ないしはその会議が組合規約上争議行為の決定権、指令権ないしはその変更権を有せず、中央本部の決定に拘束されるものであるとしても、右決定の範囲内においてそれを実施するための細部の具体的諸措置を決定する権限を有し、組合員の意思統一をはかり、争議実行の共同意思を形成したかぎりにおいて、その機関を構成する者に本件争議行為の共謀責任を負わせる障害事由となるものではない。

また、公労法一七条一項後段にいう「そそのかし」「あおり」の意義は前述のとおりであるが、右規定の「そそのかし」または「あおり」行為の態様は、その対象たる争議行為が公労法一七条一項前段に違反する争議行為である限り、争議行為に通常随伴するものであるかどうかを問わないものと解するを相当とする。この点申請人らは右規定の「そそのかし」「あおり」行為は違法性の強い態様で行なわれた場合に限定して解釈すべきである旨主張するが、これと同旨の最高裁都教組事件判決は、争議行為そのものを処罰の対象とせず、あおり行為等に限つてこれを処罰すべきものと規定する地方公務員法六一条四号の趣旨に照し、争議行為に通常随伴して行なわれる「そそのかし」「あおり」行為は争議行為の一環としてこれを刑事罰の対象から除外するのが相当であると解したものであるから、右解釈を争議行為およびその「そ責そのかし」「あおり」行為の双方を民事任の対象とする旨を規定する公労法一七条一項、一八条の解釈にそのままあてはめることは適切ではないし、争議行為に通常随伴するものと認められるあおり行為等を右規定の対象から除外するときは、違法争議行為の禁止を実効あらしめるために争議行為のみならず、その「そそのかし」「あおり」行為についても規制した右規定の趣旨はほとんど空洞化するおそれがあり、他に右規定の「そそのかし」「あおり」行為をその違法性の強弱を区分して解釈すべき特別の根拠を発見することができない。そうだとすれば、「そそのかし」または「あおり」行為の方法はどうあれ、公労法一七条一項に禁止される争議行為の実行を指令し、慫慂し、説得する等の行為はすべて右規定にいう「そそのかし」または「あおり」に該当するものといわなければならない。

(二) 申請人らの行為と公労法一七条一項後段該当性

そこで右に述べたところにしたがい、本件争議行為における申請人らの行為につき公労法一七条一項後段の該当性につき判断すると、次の如くである。

1 申請人山出について

申請人山出本人尋問の結果によると、申請人山出は昭和二六年動労の前身である国鉄機関車労働組合の結成と同時に組合に加入し、その後支部役員を経て、昭和四〇年九月天王寺地本書記長に選任され、以来、途中一年間を除いて本件解雇までその地位にあつて、組合業務に専従し、本件解雇後の昭和四六年九月には同地本副委員長に選任されていることが認められ、本件争議行為当時同地本書記長として多年の経験を有し、組合員に対する相応な指導力影響力をもつていたことが推認できる。

ところで、前記認定事実によれば、申請人山出は、①昭和四六年三月一九日からの天王寺地本定期委員会に出席し、第六七回中央委員会の決定(大巾賃上げ獲得等のため全一日ストライキをもつて闘うとの決定)を確認し、これを具体化する同地本の闘争方針の決定に参画し、②四月二一日全国代表者会譏に出席し、中央闘争委員会の決定した闘争方針の大綱(五月七日以降のストライキ準備体制を確立すること)を確認、了承し、③四月二七日天王寺地本代表者会議に出席し、全国代表者会議の確認事項等について地本・支部相互間の意思統一を図り、④五月一二日天王寺地本代表者会議に出席し、天王寺地本がストライキ準備地本に指定されたことに伴うストライキ体制確立の具体化について地本・支部相互間の意図統一を徹底し、⑤五月一五日天王寺拠点戦術会議に出席し、派遣中闘から本件争議行為の具体的戦術内容について指示を受け、これらを確認するとともに、同地本闘争委員の拠点配置、その方法等について派遣中闘・地本闘争委員相互で意思統一を図り、さらに同日の天王寺地本代表者会議に出席して右戦術会議の指示ないし決定を確認、了承し、もつて本件争議行為を実行する目的をもつて共同の意思を形成するため謀議したものであつて、これは本件争調行為の「共謀」に該当する。

また、申請人山出は、前記認定事実にによれば、五月一九日午後九時頃国労動労共闘本部前において開催された決起集会において、細合員に対し、本件争議行為への参加と団結を要請したものであり、前記認定の申請人山出の地位をあわせ考慮すれば、右行為は本件争議行為の「そそのかし」若しくは「あおり」に該当する。

2 申請人今出について

前認定事実によれば、申請人今出は、申請人山出の項記載の①天王寺地本定期委員会④天王寺地本代表者会議、⑤天王寺地本代表者会議に出席し、右各会議における前同項記載の中央委員会決定の確認とその具体化の決定、ストライキ体制確立の具体化についての地本・支部相互間の意思統一に参画し、また派遣中闘による本件争議の具体的戦術内容についての指示を確認し、もつて本件争議行為を実行する目的をもつて共同の意思を形成するために謀議したものであつて、これは本件争議行為の「共謀」に該当する。

従つて、申請人両名は公労法一七条一項後段に該当する行為をなしたものである。

(二) 解雇権濫用の成否

1 本件解雇は、申請人らの公労法一七条一項後段に違背する行為をしたことを理由に同法一八条の規定を適用してなされた処分であるところ、申請人らは、同法一八条は元来集団行動としての争議行為の責任を組合員個人に問うことになるものであるから勤労者の団結権を侵害するものであり、かつまた同法一七条一項後段に違反する行為をした者を一律解雇する旨定める苛酷な制裁規定であるから憲法二八条、三一条に違反する旨主張する。

よつて判断するに、公労法一七条一項は、公共企業体等における争議行為を禁止するにあたり、違法な争議行為の発生を抑止するために、争議行為の実行行為を禁止するばかりではなく、その企画、指導等をも禁止する必要を認めたものであり、同法一八条は右禁止規定の実効性を確保するため右の禁止行為に違背した個人に対して解雇という不利益処分を課することを許容しているものと解される。しかして個々の組合員が組合としての争議行為に参加した場合には、いわゆる集団的労働関係を生じ、当該争議行為は集団行動として行なわれるものであるから、争議行為自体の責任を組合員個人に追及するならば、勤労者の団結権に対しなにほどかの侵害を招来するおそれのあることは否定しえない。しかしながら、個々の組合員が組合としての争議行為に入つた場合においても、個別的労働関係が解消される理由はなく、当該争議行為が違法であり、かつ右違法争議行為について組合員個人の行為責任が認められる場合には、なおそのことを理由として組合員に対し、個別的労働関係上の責任を追及することを不合理なものということはできない。そして公労法一七条が前記のとおり公共企業体等の職員の争議行為を禁止し、争議権そのものが一定の制限を受けているものである以上、制裁としての解雇処分によつて禁止争議行為に出た個人の責任を追及し、その結果争議権発動の基底をなす団結権に影響するところがあるとしても、右法条の趣旨からやむをえないものといわざるを得ない。

また、公労法一八条は、同法一七条一項の規定に違反する行為をした職員は「解雇されるものとする」と規定しているが、その法意は、公共企業体等職員の労働基本権に対する必要最少限制約の原則に照らすと、一律的に解雇することを規定したものではなくして「解雇することができる」とする趣意であり、かつ解雇するか否か、その他どのような制裁を課するかは違法な争議行為の態様、程度に応じ、合理的な裁量に基づいて決すべきものとする趣旨であると解するのが相当である。

このように理解するかぎり、公労法一八条は直ちに憲法二八条、三一条に違反するものとはいえないから、申請人らの前記主張は採用できない。ただ、争議行為禁止違反に対して課される不利益は必要かつ合理的な最少限度を超えないよう十分な配慮がなされなければならない。

2 そこで、右公労法一八条の趣旨にもとづき、申請人らに対する本件解雇の効力につき判断する。

(1) 本件争議行為は、前認定のように、主として二つの目的を掲げて行なわれた。一つは動労組合員の賃金引上げであり、他の一つは生産性向上運動の中止および右運動に伴う不当労働行為の根絶を求めることであつた。

ところで国鉄当局は、前者については、本件争議行為の突入直前まで提案中の合理化事案の解決が先行しない限り実質的な交渉には応じられないとして組合側の要求に対する具体的回答を避け続けた。国鉄当局のこのような態度は当時国鉄財政が極度に悪化していた背景に鑑みるときは、一概に不当といえない面があるが、右合理化事案の中には早急な解決が困難なものも含まれていたのであつて、賃金引上げという早期解決の必要ある問題について、果して公労委調停委員会の協力要請を拒否してまで合理化事案の先決を固持しなければならなかつたかどうかいささか疑問の余地がある。ただし、前認定のとおり、公労委調停委員会において、賃上げ額についての労使双方の主張には大きな隔りがあつたことからすると、賃上げ要求に対する国鉄当局の有額回答の有無が本件争議行為の決行自体を左右したとは必ずしもいえないことが窺われ、右賃上げ問題の処理にあたり国鉄当局に責むべき点があつたとしても、そのことが本件争議行為突入に及ぼした影響の程度は僅少であつたと推測される。

しかしながら、前認定のとおり動労が昭和四五年七月の定期大会においてすでに賃金闘争を第三者機関に依存せずストライキ体制にもとづく力関係により解決する旨の闘争方針を打ち出し、本件争議行為も右方針にしたがい具体化された面があることを考慮しても、なお、動労が本件争議行為に突入し、これを長時間継続した決定的要因は生産性向上運動に伴う不当労働行為の問題にあつたと認められるのであつて、この点については国鉄当局側に責むべき点のあつたことは否定できないのである。すなわち、<証拠>によると次の事実が認められる。生産性向上運動(通称マル生運動)は、その起源をILO(国際労働機関)のフイラデルフイア宣言に発し、人間性尊重の労使関係にもとづく生産性の向上を基本的考え方とするものといわれ、日本においては昭和三〇年頃から日本生産性本部が右運動の推進にあたり、その運動の理念として雇用安定、労使協調、公正配分の三原則が掲げられた。国鉄は年々累積する膨大な赤宇の解消に苦慮していたが、右赤字財政の再建対策の一環として昭和四四年企業の合理化を基盤とする国鉄財政再建一〇ケ年計画を立て、これを推進することとし、そのためには国鉄自身の合理化、近代化とこれに向つての国鉄職員の努力が緊要であるとの認識のもとに、国鉄職員に対する新しい理念教育の必要を考え、その具体策として生産性向上運動を導入することを決定した。そして日本生産性本部の協力を得て、昭和四五年一〇月右運動推進機関として本社はじめ全国の各鉄道管理局に能力開発課を設置し、職員教育のために能力開発情報を発行し、全職員に対し、国鉄再建のために国鉄の合理化促進が必要であることを強調するとともに、職員教育の中において生産性向上運動の理念にそつた労働組合の体質改善の必要性を説いた。一方、国鉄当局側のこのような生産性向上運動に対し、国労、動労両組合は、右運動により当局の推進する企業の合理化、近代化が職員の労働の強化、大量の配置転換、労働安全への危険を招くとして反対の態度を表明し、また右生産性向上運動は効果的な財政再建対策となり得ないと主張するとともに、右運動の本質は国鉄当局の意向に忠実に奉仕する職員の養成を目指すものであり、組合の弱体化を意図するものであると強く当局を非難した。このため、国鉄当局は生産性向上運動をあくまで推進するためこれに反対する国労、動労と徹底対決する方針を固め、生産性教育を開講して国労、動労の運動方針が誤りであるとの印象を与える教育を活発におし進め、その結果全国各職場において、この運動を推進する現場の職制から組合誹謗、昇給、昇格差別を手段とする組合脱退の強要あるいは慫慂が行なわれる事態が頻発するに至り、現実にも生産性教育を受けた組合員が次々と国労、動労を脱退し、脱退者は次第に増加する傾向を示した。とりわけ天王寺鉄道管理局においては生産性向上運動が最も広汎に展開され、昭和四五年一〇月当時約九、〇〇〇名の組合員を擁した国労南近畿地本では、その後一年間に約二、〇〇〇名を超える組合員が脱退した。しかるに国鉄当局は生産性向上運動に伴う不当労働行為の問題については、きわめて消極的立場で対処したため、その後も職制による組合脱退強要等の不当労働行為は一向におさまる気配を示さず、本件争議当時においても末端の職場においては相変らず国労、動労脱退の勧奨等の支配介人行為が頻発し、その中には当局自ら作成した脱退届用紙に記入を慫慂するもの、あるいは国労、動労に留まる限り昇給、昇職、昇格等で他の職員と区別されると告げるものまで見受けられた。このような職場の情勢を反映して、国労、動労組合員の生産性向上運動に対する反撥は一層深まり、当局の組合切り崩しから組合組織を防衛するためにはストライキを背景に当局に反省を迫ることが最も有効な手段であるとの認識が一般化し、本件ストライキの賛成率が高率となる一因となつた。以上のとおり認められる(なお、生産性向上運動に伴う不当労働行為は、本件争議後にも依然として頻発したが、公労委がその後国労の同運動にからむ不当労働行為救済命令申立に対し、不当労働行為の存在したことを認定して救済命令を発するに及んで、生産性向上運動は昭和四六年一二月をもつて中止されるに至つた)。

右認定の事実によれば、生産性向上運動は、ほんらい的には不当な目的をもつ運動ではなかつたというべきであるが、現実には職場において本来の趣旨から大きく逸脱した形において推進せられたことが明らかで、この点について被申請人に責任がないとは決していうことができないのである。組合側がこれを重大な団結権の侵害として受けとめ、とくに脱退組合員が続出していくことを深く憂慮していたことは容易に理解し得る。そして、生産性向上運動に伴う不当労働行為の根絶については本件春闘ストライキに突入する直前に行なわれた労使交渉においても、全く進展をみず、遂にストライキ突入指令が発せられたものである。しかも公労協統一ストライキとして実施された本件争議行為において国労、動労を除く他の公労協各組合が五月二〇日午前一〇時頃にはストライキを中止したのに、なお国労・動労のみが同日午後七時頃までストライキを継続したのは、生産性運動に伴う不当労働行為の問題が未解決であつたことと関係があるとみるべきことは前認定のとおりであり、もし国鉄当局においてこの問題について明朗卒直な態度に出ていたとすれば、同日午前一〇時以降のストライキ継続は回避することができたとも認められるのである。

そうだとすれば、本件争議行為が同日午前一〇時以後も継続されたについては、国労、動労の側に酌量すべき面が多分に存するものといわなければならない。

(2) 次に、申請人らの本件争議行為に対する参画の程度、態様について検討する。既に認定したように、争議行為の実施日、拠点、戦術等の大綱は動労中央本部で決定するのであり、戦術会議等における闘争戦術の具体的決定についても派遣中闘が主導的立場に立つのである。申請人らは闘争拠点として指定を受けたところの地本の書記長ならびに執行委員として、その立場からその職責を遂行したもので、本件争議行為における申請人らの行為中、共謀の態様は多分に受動的なものと認められる。しかも申請人らは、本件争議行為の大綱が決定されるに至るまでの主要な会議である大会、中央委員会ならびに天王寺地本に対するストライキ準備地本指定を確認了承した関西ブロック代表者会議に出席しておらず、申請人今出は中央本部の闘争方針の大綱を確認した全国代表者会議にも参加していない。また、申請人山出の前記あおり行為も、争議行為におけるきわめて通常の形態のものであつて、地本書記長としての職責遂行上必要な域をことさら逸脱したものとは認められない。本件争講行為における各拠点の闘争は派遣中闘がそれぞれ現地最高責任者としてこれを統率指導したものであることは前認定のとおりであり、申請人ら地本役員は実質上その指導体制の中に組み込まれていたものと評価し得ないでもない。

さらに、<証拠>によると、本件各闘争拠点に配置された派遣中闘あるいは申請人らより上位の地本役員はいずれも本件争議行為以前の闘争における処分により解雇されていたこと、本件争議行為により解雇された動労組合員は申請人ら両名のみであつたことが認められ、また証人長瀬繁一の証言によると、申請人今出は、本件争議行為当時申請人山出と異なり組合役職に専従しておらず、天王寺鉄道管理局内における争議行為の責任追及に当り組合非専従者が解雇されたことは前例がなかつたことが認められるのである。

(3) 思うに、解雇は、国鉄職員としての地位を奪い、その生活の基盤を覆えすのはもとより、永年にわたる経験、技術等をも殆んど無為に帰せしめる重大な不利益処分であり、社会的実態からみてその不利益性は必らずしも刑事処分に劣るとはいえない。争議行為を理由とする不利益は必要且つ最少限度にとどめるのが憲法上の要請に副う所以であり、解雇のごとき決定的な不利益処分はことに必要万やむを得ない場合に限るのが適正な人事権の行使であるといわなければならない。本件についてみるに右にみてきたような本件争議の原因、動機、規模、影響の程度、申請人らの本件争議行為において果した役割、申請人らの共謀、あおり、そそのかし行為の態様等の諸点を考えるならば、申請人らが昭和四四年三月二日の争議行為により停職一二ケ月の処分を受けている前処分歴を事情として斟酌しても、なお本件解雇は苛酷に失すると認められる。申請人らより上位の組合幹部がすでに解雇されているからといつて、直ちに申請人らが解雇に値するものとなるものでないことはいうまでもない。すると、本件解雇は裁量権の範囲を逸脱したもので、公労法一八条の適用を誤つた無効な処分であるといわなければならない。すると、不当労働行為の主張について判断するまでもなく、申請人らは被申請人に対し雇用契約上の権利を有することとなる。

第三賃金請求権

申請人山出は、本件解雇処分を受けた当時、組合専従者で、昭和四五年九月一日被申請人よりその後一年間公労法七条による組合専従の許可を受けていたことは当事者間に争いがないところ、右組合専従期間の延長等の点につき特段の疎明のない本件においては、申請人山出は、本件解雇処分を受けなかつたとすれば、昭和四六年八月三一日限り組合専従者たる地位を喪失し、被申請人に対し雇用契約上の権利を行使しうるものというべきであり、弁論の全趣旨によれば、被申請人が本件解雇により同申請人との雇用契約は終了したとして、その就労を拒絶していることが一応認められるから、右就労不能は被申請人の責に帰すべき事由によるものというべく、従つて、同申請人に対し昭和四六年九月一日以降の賃金請求権を失わないことが明らかである。被申請人は、申請人山出は本件解雇後も天王寺地本役員に選任され、組合業務に専従しているので、被申請人に対し賃金請求権を有しないと主張するが、同申請人は組合専従期間の満了した後である昭和四六年九月一日以降は公労法七条にいう組合専従者の地位にはないから、右組合役員就任の事実は賃金請求権の行使を妨げる事由とはなり得ない。しかして、申請人山出は本件解雇当時、動力車乗務員俸給表七職四八号の給与を受けうる地位にあつたところ、その後右職群号俸の給与は別紙賃金目録(一)記載のとおり改訂されたこと、被申請人の賃金支払日が毎月二〇日であることは当事者間に争いがないから、同申請人は昭和四六年九月一日以降毎月二〇日に別紙賃金目録(一)月額賃金欄記載の額の賃金請求権を有するものである。

申請人今出は、本件解雇当時一般職俸給表五職七七号俸の給与金七万四、四〇〇円の支給を受けていたこと、その後右職群号俸の給与は別紙賃金目録(二)記載のとおり改訂されたことは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、被申請人は同申請人を解雇したとして昭和四六年七月一六日からその就労を拒否していることが一応認められるから、同申請人は被申請人に対し、同日以降同月三一日までの賃金三万八、五八〇円および昭和四六年八月一日以降毎月二〇日に別紙賃金目録(二)月額賃金欄記載の額の賃金請求権を有するというべきである。なお、被申請人は、申請人今出に対する本件解雇が無効であるとしても、同申請人は懲戒処分の適用を免れず、右処分受けた場合は右改訂の賃金請求権を有しない旨主張するが、いずれにしろ被申請人が右懲戒処分を発動した旨の疎明はないから、右主張は失当である。

第四保全の必要性

申請人両名各本人尋問の結果によると、申請人らは、いずれも妻子を有し、被申請人から支給される賃金を生計の資とするもので、格別の資産を有しないことが窺われるから、被申請人より職員として取り扱われず、本案判決確定に至るまで賃金の支払を受け得られない場合には生活の困窮等著しい損害をこうむるおそれがあり、仮処分の必要性が認められる。

もつとも、<証拠>によると、申請人らは本件解雇後動労犠牲者救済資金の適用を受け、組合から賃金相当額その他各期末手当等の支給を受けていることが認められる。しかし、右各証拠によれば、犠牲者救済資金による右支給は、組合が各組合員の醵出において被解雇者を応急的に救援する措置であることが窺われ、その本質はやむをえざる臨時的なものであつて、解雇無効の裁判が確定し復職した場合返還を要するものと推測されるので、申請人らが右救済措置により本件解雇後の生計を維持しているからといつて、仮処分の必要性を否定するのは相当ではない。

第五結論

以上判断のとおり、申請人らの本件地位保全、金員仮払仮処分申請は、被保全権利および保全の必要性につき疎明があるから、全部正当として保証を立てさせないでこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(今中道信 藤田清臣 宮本定雄)

<賃金目録(一)(二)省略>

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